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臨床医学各論
    
     

臨床医学各論

 

 

[使用上の注意]

1.国家試験出題基準(はり師・きゅう師)に記載されている疾患名について、臨床医学各論(第2版)の内容に基づき作成した「まとめ」のサブノートです。記載されていない疾患もありますが、学内試験や国家試験に役立ててください。

2.現在の教科書や出題基準と比較すると相違する部分があることに留意して、自己責任で使用してください。

3.太字下線部分は国家試験の出題部分を示し、番号は出題時期(第何回)を表しています。第15回までしか記載していません。

4.脚注番号を挿入し、脚注内容をクリックすることで参照できるようにしました。元の場所に戻るには脚注番号をクリックしてください。

5.誤字・脱字等のミスがあるかと思いますが、ご容赦ください。

 

 

章 感染症

B.細菌感染症

a.猩紅熱*15

[病因]    A群溶血性連鎖球菌*15の飛沫感染による

[症状]    1)潜伏期(2〜4日)

        2)発熱(38〜40℃)、咽頭痛、頭痛、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感

        3)発疹(発症後12〜24時間以内に全身が発赤)

        4)口囲蒼白(頬や顎は赤いが、口の周りには発疹が生じないため蒼白)

        5)イチゴ舌

[予後]    リウマチ熱、急性糸球体腎炎の続発もみられる

 

b.百日咳

[疫学]    3種混合ワクチン接種で減少したが、現在でも小児科領域では多い

[病因]    百日咳菌の飛沫感染による

[症状]    1)潜伏期(1〜2週間)

        2)カタル期(1〜2週間):微熱、鼻漏、咳などのカタル症状

        3)痙咳期(2〜6週間):咳が強くなり、吸気性笛声音(ヒュー)を伴う

        4)回復期(1〜3週間)

 

c.ジフテリア*17

[疫学]    3種混合ワクチン接種で減少し、現在では年間数例のみである

[病因]    ジフテリア菌の飛沫感染による

[症状]    1)潜伏期(1〜7日)

        2)咽頭痛、発熱

        3)偽膜形成*17

        4)ジフテリア菌産生毒素症状

            (1)心筋障害(頻脈、不整脈、心不全)

            (2)神経障害(軟口蓋麻痺、眼球麻痺、横隔膜麻痺、四肢麻痩)

 

d.破傷風*3*13*17

[疫学]    3種混合ワクチン接種*13で減少し、現在の発症数は年間数十例ほどである

[病因]    嫌気性*13の破傷風菌が外傷などの傷口から侵入*13して増殖し、破傷風菌の産生する外毒素*13が神経行性に中枢神経*13へ運ばれて発症する

[症状]    1)潜伏期(受傷後4〜7日、あるいは4〜5週)

        2)創傷部周囲筋肉の緊張と痙攣、受傷側四肢の反射亢進

        3)随意筋の痙攣(わずかな音や光の刺激で筋痙攣が誘発される)

            (1)牙関緊急*17(開口障害)

            (2)痙笑(顔面筋の痙攣)

            (3)後弓反張(体幹と四肢の筋肉痙攣)

            (4)嚥下障害

        4)その他(項部硬直、便秘、頻脈など)

 

f.細菌性食中毒*9*14

[概要]        細菌または細菌の産生毒素で汚染された飲食物を経口的に摂取して発症する

[疫学]    腸炎ビブリオ*14黄色ブドウ球菌*14サルモネラ*14が年間発生の上位を占めている

[病因・分類]

        1)毒素型(食品内で増殖した細菌の産生した毒素によって発症)

            (1)黄色ブドウ球菌は100℃、30分の加熱でも不活性化されない耐熱性エンテロトキシンを産生し、胃または小腸から吸収されて嘔吐中枢を刺激して発症する

            (2)ボツリヌス菌は80℃、30分または100℃、1分間の加熱で不活性化される神経毒が小腸から吸収され、弛緩性麻痺を起こす真空包装食品などから広域集団発生を起こしたことがある

        2)感染侵入型(増殖した生菌によって発症

            (1)細菌が腸管組織へ侵入し、細胞毒素やエンテロトキシンを産生し、炎症を起こして腸管症状をきたす。さらに毒素は腎臓や脳などの臓器に障害を与えることもある

            (2)サルモネラ、腸炎ビブリオ潜伏期は数日間*9)、腸管病原性大腸菌、カンピロパクター、エルシニアなどがこのタイプに属する

        3)感染毒素型(細菌が腸管内で増殖する際に産生するエンテロトキシンによって発症)腸管病原性大腸菌、ウェルシュ菌などが相当する毒素により、水分や電解質の輸送障害が起き、腸管症状が出る

[症状]    1)胃腸症状(嘔吐、下痢、腹痛など)が主症状

        2)感染型では発熱がみられる

        3)毒素型では潜伏期間が短く、発熱を伴わないことが多い

        4)ボツリヌス中毒では、毒素により以下の症状がみられる

            (1)眼症状(視力低下・複視・眼験下垂・瞳孔散大など)

            (2)球麻痺症状(発語障害・腕下障害・呼吸困難など)

            (3)分泌障害(唾液、涙、汗)

        5)ベロ毒素産生性腸管病原性大腸菌食中毒では、小児や高齢者で腸炎発症後数日から1週間頃に溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病を起こして重症になる危険性がある

[予後]    1)ボツリヌス、ベロ毒素産生性病原性大腸菌食中毒を除けば一般に良好

        2)ボツリヌス中毒では、早期に抗毒素を投与しないと約1/3が死亡し、最も致死率が高い*14

        3)ベロ毒素産生性病原性大腸菌食中毒では、溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病を起こした場合の予後は悪い

 

g.細菌性赤痢*17

[病因]    赤痢菌による経口感染

[症状]    1)潜伏期(1〜4日)後に急激に発症する

        2)悪寒、発熱、

        3)腹痛、下痢(膿粘血便*17

        4)悪心・嘔吐

[予後]    予後は良く1週間以内に回復する

 

B.ウイルス感染症

a.インフルエンザ

[疫学]    1)冬季に大流行を起こしやすい

        2)わが国では年間に数百〜1千万人以上が罹患し、数千〜1万人以上が死亡している

[病因]    インフルエンザウイルスACによる飛沫感染

[症状]    1)潜伏期(1〜2日)

        2)全身症状(悪寒、発熱、頭痛、腰痛、倦怠感など)が先行

        3)発熱は39〜40℃の高熱が3〜5日間持続した後、急速に解熱する

        4)呼吸器症状(咳、喀痰、胸痛)が遅れて出現

        5)筋肉痛、関節痛、悪心・嘔吐、腹痛を伴うこともある

[治療]    1)薬物療法として、A型インフルエンザにはアマンタジン.A、B型インフルエンザにはザナミビルが有効である

        2)ワクチンによる予防が重要である

 

b.麻疹*17

[疫学]    主として3歳以下の乳幼児期に発病

[病因]    麻疹ウイルスの感染による

[症状]    1)潜伏期(1O〜12日)

        2)カタル期:発熱、咳、鼻汁、結膜炎で発症し、発症後2〜3日目に口腔頬粘膜にコプリック斑*17と呼ばれる周囲が赤い小さな斑点が出現する

        3)発疹期:発症後3〜4日にいったん解熱するが、再び高熱が出て、耳後部、頚部から次第に全身に斑状の丘疹性発疹が出現する

        4)回復期:2〜3日高熱が続いたのち、急速に解熱し、発疹が消退する

 

d.流行性耳下腺炎*1*15(おたふく風邪)

[疫学]    学童が主体に発病するが、約15%は思春期から成人で発症する

[病因]    ムンプスウイルス*1*15の感染による

[症状]    1)潜伏期(2〜3週間)

        2)発熱(数日で軽快)

        3)耳下腺の腫脹・疼痛(約1週間で消退)

[合併]    髄膜炎、膵炎、精巣上体炎(副睾丸炎)、精巣炎(睾丸炎)などを起こすことがある

[予後]    髄膜炎を合併したときには難聴、精巣炎・精巣上体炎を合併したときには不妊の原因になることがある

 

.性感染症(梅毒*9淋疾*9クラミジア感染症*9

.梅毒

[疫学]    現在では減少傾向にあり、1990年代の患者数は1,000例前後である

[病因]    1)梅毒トレボネーマの感染によって起きる性感染症(STD)である

        2)母親が梅毒の場合に、母体内で感染する先天性梅毒もある

[症状]    1)第1期梅毒(感染後3カ月まで)

            (1)感染約3週目に、梅毒トレポネーマの侵入した部位に初期硬結ができ、丘疹が潰瘍となって硬性下疳を生じる

            (2)所属リンパ節が腫脹し、無痛性横痃と呼ばれる

            (3)これらの病変は数週間以内に消える

        2)第2期梅毒(感染して3カ月以降)

            (1)梅毒トレポネーマが血中に入って増殖し、発熱、関節痛、全身倦怠感、全身リンパ節腫脹などを起こす

            (2)多彩な発疹が特徴で、梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、扁平コンジローム、梅毒性乾癖、脱毛症などがみられる

        3)第3期梅毒(感染して3〜10年)

            結節性梅毒、ゴム腫、粘膜疹が現れる

        4)第4期梅毒(感染して10年以降)

            心血管梅毒として梅毒性大動脈癌、神経梅毒として脊髄癆、進行麻痺などが現れる

[診断]    血清学的検査(ワッセルマン反応、TPHA法、FTA-ABS法)から確定診断する

 

b.淋病(淋菌感染症)

[疫学]    1)男性10万人当たり127人、女性10万人当たり29人の罹患率(1999)

        2)性行為の多様化により増加傾向にある

[病因]    淋菌による性感染症

[症状]    1)潜伏期(1〜14日間)

        2)男性

            (1)尿道炎が代表的で、尿道不快感、排尿痛、黄色の膿性尿道分泌物の排出がある

            (2)頻尿、尿意切迫感、尿道口の腫脹も認められる

        3)女性

            (1)子宮頚管炎が代表的で、症状は軽く膿性腫分泌物の増量が主体である

            (2)尿道に波及した場合には、排尿痛や頻尿を伴う

            (3)女性では症状が軽いだけに、保菌者になって感染源となりやすい

        4)結膜炎、咽頭炎、直腸炎、腹膜炎、全身感染症を起こすこともある

[予後]    適切な治療で早期に治癒する.ただし不適切な治療では、尿道狭窄や卵管狭窄を起こすことがある

 

c.性器クラミジア感染症

[疫学]    1)非淋菌性尿道炎の原因としてもっとも多い(40〜50%)

        2)男性10万人に112人、女性10万に256人の罹患率(1999)

[病因]    クラミジア・トラコマチスによる性感染症

[症状]    1)潜伏期(1〜2週間)

        2)頻尿、排尿痛、膿性分泌物が出現する

        3)女性では頚管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨髄腹膜炎など

        4)男性では精巣上体炎などへ波及することがある

 

d.エイズ*2*7*9*10(AIDS、後天性免疫不全症候群)

[疫学]    1)全世界でのHIV感染者ならびにAIDS患者生存者は4、200万人(推定)(WHO2002)

        2)わが国では2003年3月現在、HIV感染者は5,286人、AIDS患者は2,624人の届出がある

[病因]    ヒト免疫不全ウイルス(HIV;humanimmunodeficiencyvirus)の感染*10によって、CD4陽性Tリンパ球の機能が破壊され、免疫能が低下する

[感染経路]

        1)HIV感染者との性交渉*2(80%以上)

        2)HIVが混入した血液製剤の輸注・輸血*2

        3)HIV感染者の妊娠・出産

        4)針刺し事故*2

[症状]    1)急性期(HIV感染2〜4週間後):発熱、日目頭炎、リンパ節腫脹、関節痛、筋肉痛、皮疹などがみられるが、数週間で消失する

        2)無症候期(数年〜十数年):特別な症状はない

        3)エイズ関連症候群期:表在性リンパ節腫脹、体重減少、発熱、下痢などの消耗状態

        4)エイズ発症期:口腔・食道カンジダ症、帯状庖疹、カリニ肺炎*9、サイトメガロウイルス肺炎などの日和見感染、悪性リンパ腫、カポジ肉腫などを起こす.脳炎を起こして認識・行動障害、無気力、無関心など神経症状をみることもある

[予後]    エイズが発症してからの予後は不良である.抗HIV薬の開発で、エイズ発症までの期間の延長、さらに発症してからの生存期間も延びつつある

 

章 消化器疾患

A.口腔疾患

*.う歯*1*9

[病因]    う蝕原性菌(ミュータンス連鎖球菌などの口腔内細菌*9微生物*1)によって、食物*9(特に糖質)から作り出される酸による脱灰*1現象

[誘因]    1)食事中の糖が多い*

        2)唾液の分泌が少ない*1

        3)歯の質が弱い*1

        4)年齢には関連がない*1

[分類]    1)C0:歯質の不透明感や白斑、色素沈着が認められるが齲窩が確認できない

        2)C1:エナメル質に進行したう蝕(痛みは生じない*1

        3)C2:象牙質に達したう蝕

        4)C3:歯の神経である歯髄に達したう蝕

        5)C4:歯髄の先が膿んだ病変の状態

        6)C5:歯冠部が崩壊し残根状態のう蝕

[症状]    1)初期にはエナメル質の変色

        2)冷水痛(象牙細管を通じて歯髄との交通による)

        3)熱水痛、自発痛(歯髄炎による)

 

*.アフタ性口内炎

[病因]    1)原因不明

        2)潰瘍性大腸炎、ベーチェット病、白血病などの合併症としてできることもある

[症状]    口腔粘膜や舌側縁にアフタと呼ばれる浅い小潰瘍が形成され、疼痛がみられる

 

B.食道疾患

a.食道癌*16

[概念]    食道粘膜上皮から発生する悪性腫瘍である組織学的には90%以上が肩平上皮癌

[疫学]    1)60歳以上の高齢男性に多く、悪性腫瘍の死因第5位(2005)

        2)男女比は約6:1である

        3)好発部位:中部食道>下部食道>上部食道

[病因]    1)原因不明

        2)危険因子:(1)アルコール、(2)喫煙、(3)熱い食物

[症状]    1)初期:無症状あるいは嚥下時に「しみる」程度

        2)進行癌:食道の狭窄による嚥下困難(とくに固形物)がみられ、その結果、体重減少をきたす

        3)周辺臓器への浸潤による症状

            (1)嚥下性肺炎*16(食道・気管支瘻を形成)

            (2)吐血*16(大動脈に浸潤)

            (3)嗄声*16(反回神経への浸潤)

            (4)ホルネル症候群(交感神経の浸潤により、同側の眼険下垂、縮瞳)

            (5)徐脈(迷走神経を圧迫刺激)

            (6)顔面浮腫(上大静脈症候群)

[診断]    1)早期発見には内視鏡検査が有用であり、ルゴール塗布による観察と生検組織診断を行う

        2)透視検査は診断力が落ちるので早期診断には適切でないが、病変の部位、進展を判定するうえで役立つ

        3)生検組織の病理検査を行って隆起型食道癌の類似病変の良性腫瘍である食道ポリープと鑑別する

[分類]    胃癌とほぼ同様で、早期癌を粘膜下層までのO型(表在型)とし、進行型を1から5型までに分類

[予後]    5年生存率は進行度によって異なっているが、20前後と考えられている

 

b.食道炎・食道潰瘍

[概念]    1)物理・化学的刺激や感染により食道粘膜に炎症や潰瘍を形成する

        2)胃酸の逆流によるものをとくに逆流性食道炎という.最近、噴門部括約筋の機能障害は呼吸器疾患(慢性咳轍、慢性気管支炎など)や耳鼻科疾患(副鼻腔炎、中耳炎など)の原困になると考えられるようになり、GERDと呼ばれて注目されている

[疫学]    高齢者に多い

[病因]    1)物理・化学的刺激(酸・アルカリ、熱、放射線など)、

        2)感染(細菌・ウイルス・真菌など)

        3)逆流性食道炎(高齢者では食道・胃接合部の噴門部括約筋が弛緩しているため、胃液が食道内に逆流しやすく、胃酸により食道炎を起こしやすい)

[症状]    1)軽度の場合:無症状または嚥下時痛や胸やけ

        2)高度な場合:潰瘍形成により、吐血・下血、嚥下障害、穿孔により縦隔炎を起こす

[治療]    1)H2受容体括抗薬、プロトンポンプ阻害薬などで胃酸分泌を抑制し、病変の拡大を防ぐ

        2)抗コリン薬は噴門部括約筋の弛緩を助長するので、逆流性食道炎には用いない

        3)食後すぐに臥床しないこと、臥床時に上半身を少し挙上させること、体重の適正化により腹圧を減少させること、が有効

 

C.胃・十二指腸疾患

.胃炎

[疫学]    疾患の定義が明確ではないので、頻度は不明であるが、日常的に診断される病名である

[病因]    1)急性胃炎:ウイルスや細菌の感染、温熱刺激やコーヒー、アルコールなどの刺激物質やストレス

        2)慢性胃炎:へリコパクター・ピロリ菌感染の関与が注目

[症状]    1)上腹部痛(とくに心窩部痛)

        2)悪心・嘔吐、食欲不振

        3)吐血・下血(胃粘膜にびらんを生じた場合)

 

b.胃・十二指腸潰瘍*1*14*17

[概念]    解剖学的には胃と十二指腸は異なっているが、潰瘍の病因・病態は類似しているので、一緒に取り扱うことが多く、消化性潰瘍とも呼ばれる

[疫学]    1)好発年齢:胃潰瘍は30〜60歳代、十二指腸潰瘍は20〜30歳代である。

        2)男女比:胃潰瘍(2:1)、および十二指腸潰瘍(3:1)ともに男性に多い*17

        3)好発部位:

            (1)胃潰瘍では、胃角部および胃角部小彎*17

            (2)十二指腸潰瘍では、球部の前・後壁

[病因]    1)攻撃因子(塩酸、ペプシン)と防御因子(粘液、粘膜内因性プロスタグランディン、粘膜血流)のバランスの崩れ

        2)へリコパクター・ピロリ菌*14*17の感染

[症状]    1)心窩部痛(胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時に発現する)

        2)背部痛(十二指腸潰瘍)

        3)消化器症状(腹部膨満感、悪心・嘔吐など)

        4)吐血(ヘモグロビンが胃酸により塩酸へマチンになるため吐物はコーヒー残澄様)

        5)下血(黒色タール便)

        6)貧血(吐血、下血による)

[診断]    ピロリ菌感染の有無については尿素呼気試験(UBT)と内視鏡下の迅速ウレアーゼ試験(RUT)が用いられる

[治療]    ピロリ菌が感染している例では、プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗生物質の投与による除菌が保険適用になっており、早期治癒、再発防止に有効である

 

c.胃癌

〔疫学]    わが国に多く、男性、女性ともに悪性腫瘍の死因第2位を占めている(2005)

〔原因〕    1)原因不明

        2)危険因子:(1)食生活(ニトロソアミンの摂取など)、(2)萎縮性胃炎の存在、(3)へリコパクター・ピロリ菌感染

〔症状〕    1)初期:無症状(検診による早期発見が重要)

        2)進行:食欲不振、上腹部痛、悪心・嘔吐、体重減少や吐・下血、貧血

        3)癌性腹膜炎を起こすと腹水が大量に貯留し、腹部膨満感、呼吸困難を訴える

        4)多彩な転移

            (1)ウィルヒョウ(Virchow)リンパ節転移(左鎖骨上リンパ節が腫大する)

            (2)血行性転移(肝や肺に転移する)

            (3)クルーケンベルグ(Krukenberg)転移(卵巣に播種性・血行性に転移し、巨大な腫癒を形成する)

            (4)シュニッヅラー(Schnitzler)転移(直腸子宮嵩〔ダグラス窩〕に播種性に転移し、直腸癌のような症状を呈する)

            (5)腹膜転移(癌性腹膜炎を起こす)

〔診断〕    1)生検組織の診断としてグループ分類があり、グループ1(正常組織)、II(異型を示すが良性)、III(良性と悪性の境界領域)、IV(癌が強く疑われるもの)、V(癌)に分類される

        2)早期癌は組織学的に癌の浸潤が粘膜下層までにとどまっているものをいい、転移の有無とは関係がない内視鏡の肉眼的所見からI型(隆起型)、IIa型(表面隆起型)、IIb型(表面平坦型)、IIc型(表面陥凹型)、III型(陥凹型)に分類    する

        3)進行胃癌の場合は従来、ボルマン(Borrmann)の分類が用いられてきた1型(腫癌型)、II型(潰瘍限局型)、III型(潰瘍浸潤型)、IV型(びまん浸潤型)に分類されるが、わが国の胃癌取り扱い規約では早期癌をO型とし、5型(分類不能)が追加されている

        4)深達度分類では癌の浸潤がどの程度の深さまで到達しているかの評価として、早期胃癌ではm(粘膜内)、sm(粘膜下層)が、進行胃癌ではpm(固有筋層)、ss(襲膜下層)、se(援膜露出)、si(隣接臓器直接浸潤)がある

        5)また手術所見ではほかの部位の癌と同様に、TMN分類(T:局所腫癌の大きさ、M:遠隔転移の有無、N:リンパ節転移の有無)が用いられ、さらにH:(肝転移)、p:(腹膜転移)についても有無を評価することになっている

 

*.ダンピング症候群*4*7

[概要]    胃切除*4後の合併症として発現し、急激に食物が腸内に入るのが原因と考えられている

[症状]    1)早期ダンピング症候群:食後に悪心、冷汗*7、動悸、脱力感、腹痛*7下痢*7などの症状がみられる

        2)後期ダンピング症候群:食後に低血糖症状を呈する

[治療・予防]

        1)糖分の補給

        2)1回摂取量を少量とし、低脂肪食とする

D.腸疾患

b.潰瘍性大腸炎*14

[概念]    下痢・血便・発熱・体重減少などを呈し、主として大腸の粘膜・粘膜下層をびまん性に侵す慢性の炎症性腸疾患である

[疫学]    わが国では約85,000人(2006)の患者がおり、増加傾向にある

[病因]    原因不明*14で、免疫機構の異常や心理学的な異常が指摘されている

[分類]    1)直腸炎型(頻度が高い)

        2)左側大腸炎型

        3)全大腸炎型

[症状]    1)発熱

        2)腹痛、下痢(粘血便・膿性便)

        3)全身症状(貧血、体重減少)←長期にわたる場合

        4)消化管外病変(アフタ性口内炎、ブドウ膜炎、結節性紅斑、壊痘性膿皮症、関節炎、原発性硬化性胆管炎)

[診断]    クローン病との相違→クローン病では大腸の粘膜・粘膜下層がびまん性に炎症を起こし、直腸から口側へと病変が連続しているのが特徴

[治療]    ストレスによって増悪するので安静とし、食物残渣が少なくなるように低繊維食とする

[予後]    1)寛解と増悪を長期にわたって繰り返す

        2)全大腸炎型では10年以上経過すると癌化率が高くなることが報告されている

 

c.クローン病*7*15

[概念]    消化管壁の全層の炎症を起こす慢性    の炎症性腸疾患である

[疫学]    1)若年成人に好発する

        2)約2:1で男性に多い

        3)わが国には約24,000人(2006)の患者がおり、増加傾向にある

        4)主として回腸末端から大腸に好発する

[病因]    1)原因不明(従来細菌感染説、ウイルス感染説、免疫学的要因などがあり、関連する遺伝子異常も報告されている)

        2)環境要因と遺伝的要因の両者が関与している可能性が高い

[症状]    1)発熱

        2)腹痛、下痢*7、血便、時に虫垂炎様症状

        3)腸管狭窄によるイレウス、低栄養症状(貧血、低蛋白血症など)

        4)瘻孔(とくに痔瘻*15)

        5)消化管外病変(口腔内アフタ、ブドウ膜炎、結節性紅斑、強直性脊椎炎など)

[治療]    食事療法として低残渣・低脂肪食とする

 

d.過敏性腸症候群*3*7*14

[概念]    腸に器質的異常がないにも関わらず、便秘、下痢*7あるいは両者を繰り返したり、腹痛などの不定の胃腸症状を呈するものをいう

[病因]    心理社会的な要因*14ストレス*3)が関与していることが多く、自律神経失調症や心身症の一部と考えられる

[分類]    1)便秘型:便秘を繰り返す

        2)下痢型:下痢を繰り返す

        3)交代型:便秘と下痢を交互に繰り返す*3

[症状]    1)腹痛(とくに左下腹部痛を伴い、排便、排ガスにより軽快する)

        2)固い便のために便に血液が付着することはあるが、血便(下血*3)がみられることはない

        3)全身症状(全身倦怠感、不眠、頭痛等を伴うことがあるが、発熱はみられない*3

[治療]    増悪因子(アルコール、食事、ストレスなど)があれば除く

 

e.虫垂炎*1*7

[疫学]    1)若年者に頻度が高い

        2)抗生物質や抗菌薬の早期投与によるため外科手術は減少

[病因]    1)食物残渣説、寄生虫迷入説、アレルギー説などがあるが、最終的には細菌感染が起こって発症する

        2)起因菌としてグラム陰性の腸内細菌によるものが多い

[症状]    1)腹痛(初期は上腹部痛がみられ、次第に右下腹部に限局する)

        2)悪心・嘔吐

        3)発熱

        4)下痢はみられない*7

[診断]    1)触診

            (1)マックバーネー点(上前腸骨棘と臍を結んだ外側3分の1の位置)

            (2)ランツ点(左右の上前腸骨棘を結んだ右側3分の1の位置)

            (3)ブルンベルグ徴候(反跳痛;圧迫していた手を放すと痛みが増強する現象)

            (4)筋性防御

        2)クローン病や憩室炎との鑑別が必要であり、女性の場合はさらに付属器炎(卵管炎、卵巣炎)や卵巣捻転、子宮外妊娠なども除外する必要がある

        3)最近は超音波検査で虫垂の観察ができるようになった

 

f.大腸癌

[概念]    大腸粘膜より発生した悪性腫瘍で、大部分は腺癌である

[疫学]    1)わが国では食生活の欧米化に伴って、近年増加傾向にある

        2)男性では悪性腫瘍の死因第4位、女性では第1位を占めている(2005)

        3)直腸癌の頻度が高い(50〜55)

[病因]    1)原因は明らかではないが、癌遺伝子の関与が示唆されている

        2)高脂肪食・低繊維食の食習慣、胆嚢切除後、長期の大腸炎に発生率が多い

        3)腺腫性ポリープは癌化しやすい(過形成性ポリープの癌化はまれ)

[症状]    1)初期

            (1)無症状(上行結腸では便に流動性があるため進行するまで症状が出にくい)

            (2)便秘(下行結腸の場合)

            (3)少量の持続出血による鉄欠乏性貧血で気付かれる

        2)進行時

        腹痛、便通障害、便の細小化、血便、腸閉塞

[診断]    腫瘍マーカーとして血清CEAがあるが、早期診断には役立たない

 

g.腸閉塞*2(イレウス*1)

[概念]    腸内容が肛門側に移動できなくなった状態をいう

[分類]    1)機械的イレウス

            (1)単純性イレウス(血行障害がない)

            (2)絞扼性イレウス(血行障害を伴う)

        2)機能的イレウス

            (1)麻痺性イレウス

            (2)痙攣性イレウス

[病因]    1)糞塊*2、腹部手術後の腹腔内癒着、大腸癌(単純性イレウス)

        2)腸捻転*2、腸重積(絞扼性イレウス)

        3)腹膜炎(麻痺性イレウス)

        4)ヒステリー、モルヒネ中毒(痙攣性イレウス)

[症状]    1)便秘、腹痛、嘔吐、腹部膨満感

        2)絞拒性イレウスは突然の激しい腹痛で発症し、ショック症状を呈することがある

[診断]    1)聴診でグル音の異常亢進(機械的イレウス)、または低下(麻痺性イレウス)を認める

        2)X線検査:小腸ガスと鏡面像がみられる

 

第3章 肝・胆・膵疾患

A.肝臓疾患

a.急性肝炎*1*2*3*9*14*16

[疫学]    A型肝炎が約45、B型肝炎が約25、C型肝炎が約10、その他が約20(2002)

[病因]    1)A型、B型、C型、E型肝炎ウイルスの感染による

        2)その他のウイルス(EB、サイトメガロ、ヘルペス、アデノウイルスなど)に起因することもある

[感染経路]

        1)A型肝炎

            (1)感染経路:経口感染*9(患者の糞便で汚染された食物など)

            (2)特徴:集団発生*9、家族内感染を起こしやすい。2〜4月頃に多く発生する

        2)B型肝炎

           感染経路:血液感染*1(輸血、注射針*141、性感染、母子感染・垂直感染*16

        3)C型肝炎

            感染経路:血液感染(輸血、注射針など)

        4)D型肝炎

            (1)感染経路:血液感染

            (2)特徴:イタリア、南米などに多いが、わが国ではまれである

        5)E型肝炎

            (1)感染経路:経口感染

            (2)特徴:インド・東南アジアに多く、わが国にはまれとされていたが、最近、北海道・東北地方での感染例が報告されるようになっている

[症状]    無症状のものから意識障害をきたすもの(劇症肝炎)まで多彩である.

        1)発熱(とくにA型)

        2)全身倦怠感、食欲不振*6、腹部膨満感

        3)関節痛(とくにA型、B型)

        4)発疹(とくにB型)

        5)黄疸、褐色尿、皮膚掻痒感

        6)肝腫大*6

[診断]    血液検査:

        1)血清AST(GOT)、ALT(GPT)、LDHが上昇する

        2)A型では膠質反応(TTT)の上昇が特徴的

        3)血清アルブミン、コリンエステラーゼは重症度に応じて低下し、プロトロンビン時聞が延長、血清ビリルビンが上昇する

[治療]    1)改善傾向が認められるまで、十分な安静、高たんぱく・高カロリーの肝庇護療法

        2)C型に対するインターフエロン療法は有効

        3)A型では免疫グロプリン投与を行うと約3カ月間の予防効果があり、最近ではHAワクチンも用いられる*9

        4)B型ではウイルスに汚染されたときに24時間以内に抗HB免疫グロブリン(HBIG)を注射し*14,続いて3回のHBワクチン投与が必要となる

        5)A型では生鮮魚介類の加熱調理、手洗いの励行が予防対策

[予後]    1)A型はほとんど完治*2

        2)B型はA型より経過が長く、慢性肝炎に移行するものもある

        3)副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を服用中の患者では慢性化の報告がある

        4)C型は慢性肝炎に移行しやすい*3(60〜70%)

 

*.劇症肝炎*9*15

[定義]    急性肝炎のうち、2週ないし2ヶ月以内に肝不全に陥るような激しい経過をとるものをいい、急激に肝壊死が広範囲に生じる(肝炎の1%以下の頻度)

[好発]    B型に多い。A型は少なく*9(高齢者には多い)、C型はまれ*15

[症状]    強い肝炎症状と意識障害(肝性昏睡、羽ばたき振戦など)

[予後]    予後不良で死亡率は80〜90%

 

e.肝硬変*1*2*5*6*10

[概念]    種々の慢性肝疾患の終末の病態で、肝臓全体が偽小葉と呼ばれる再生結節によって置き換わり繊維化して硬くなる(肝萎縮*1

[病因]    1)多くはB型、C型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎からの移行*6

        2)アルコール多飲、栄養障害、胆汁うっ滞の持続など

[症状]    1)代償期(徐々に始まる)

            (1)手掌紅斑*1*10くも状血管腫*10、女性化乳房

            (2)全身倦怠感、易疲労性、食欲不振、腹部膨満感など

        2)非代償期(肝機能が強く障害される)

            (1)黄疸、腹水貯留*1

            (2)側副血行路2、消化管出血を生じ、肝性昏睡に陥って死亡

[合併]    1消化管出血:

            (1)食道静脈瘤破裂

            (2)胃・十二指腸潰瘍からの大出血

            (3)消化管粘膜からの少量出血

        2)肝性昏睡(肝性脳症):羽ばたき振戦*2傾眠*2アンモニア口臭*2、失見当識

        3)肝癌:5年で20〜30%

        4)播種性血管内凝固症候群:各種凝固因子の低下等による

[診断]    1)肝細胞障害の所見(AST、ALT上昇、アルブミン低下、プロトロンビン時間延長)

        2)門脈圧亢進症の所見(腹水、脾機能亢進による汎血球減少)

        3)特徴的な画像所見(超音波検査による結節状肝、脾腫)

        4)生検肝組織像(偽小葉の形成)などから診断する

[予後]    1)3大死因の消化管出血、肝細胞癌、肝不全に加え感染症も多い

        2)C型肝硬変からの肝細胞癌の発生は年率約7%と考えられている

 

f.肝癌

[分類]    1) 原発性肝癌

            (1)肝細胞癌(90

            (2)胆管細胞癌(約10)

        2)転移性肝癌

[疫学]    わが国では年間約33,000人の肝癌死亡者がおり、約2:1で男性に多い(2005)

[病因]    1)原発性肝癌の70〜80はC型肝炎ウイルスによる肝硬変あるいは慢性肝炎に起因

        2)B型肝炎ウイルスによるものは10程度

[症状]    1)特徴的な症状はない

        2)多くは慢性肝炎・肝硬変を伴っており、その症状がみられる

        3)癌が増大すると肝機能の悪化がみられ、肝不全の症状が出現

[診断]    腫瘍マーカー:αフェトプロテイン、PIVKA-II

 

B.胆道疾患

a.胆石症*6*14

[定義]    胆汁の成分からできた石を胆石といい、胆石による疾患を胆石症という

[疫学]    1)成人検診受診者の約15に認められ、高齢者、女性に多い

        2)食生活の欧米化に伴ってコレステロール結石の比率が増加しつつあり、約60を占めている

[病因]    1)コレステロール結石*6(胆のう内に存在):食生活、肥満、高脂血症など

        2)ビリルビン結石*6(胆管内に存在):溶血や胆道の細菌感染が関与

[症状]    1)上腹部痛、右季肋部痛*14(胆石疝痛*14発作3

        2)閉塞性黄疸*6*14(しばしば)

        3)発熱*14(悪寒・戦慄を伴う)

[検査]    血液検査:アルカリフォスファターゼ高値(胆管閉塞による排泄障害)

 

*.胆嚢炎

[病因]    1)胆石症に合併することが多く、胆管通過障害を伴いやすい

        2)起因菌としては大腸菌、クレブシエラ菌などのグラム陰性の腸内細菌が多い

[症状]    1)悪寒戦慄、発熱、

        2)上腹部・右季肋部痛

        3)悪心・嘔吐、黄疸

 

C.膵臓疾患

a.急性膵炎*2

[概念]    膵実質内における膵酵素群(トリプシンなど)の活性化により、膵臓を自己消化することによって発症する

[病態]    1)アルコール多飲*2による膵液流出障害(約40)

        2)胆石・総胆管結石による胆汁の逆流(約20)

        3)原因不明(約25)

[症状]    1)発熱

        2)持続性の激烈な上腹部痛(心窩部痛*2)、背部痛

            痛みは仰臥位で増強し、座位前屈で軽減する

        3)悪心・嘔吐

        4)ショック症状、乏尿、呼吸困難、意識障害(重症時)

        5)出血性青色(暗赤色)変色4

        6)仮性膵嚢胞(膵実質内や膵周辺に膵液などの貯留した嚢胞が形成される)

[所見]    1)触診では臍周囲の圧痛を認めるが、炎症が深部なので反跳痛や筋性防御を認めることは少ない

        2)血清アミラーゼ高値、尿中アミラーゼ高値*2

[予後]    1)慢性膵炎に移行することは少ない(約10)

        2)重症例では、血管内血液凝固症候群や多臓器不全、敗血症を合併して死亡することがあり(致命率約30)、予後不良である

 

b.慢性膵炎

[概念]    炎症により膵臓の線維化と膵実質の破壊が徐々に進行する疾患で、外分泌障害(消化吸収障害)と内分泌障害(二次性糖尿病)をきたす

[疫学]    1)アルコールによるものは中年男性に多い

        2)特発性では男女差がない

[病因]    1)男性:(1)アルコール(約70%)、(2)原因不明(約20

        2)女性:(1)原因不明(約60)、(2)胆石(約20

[症状]    1)急性再燃時:急性醇炎と同様の症状

        2)進行時:脂肪下痢や二次性糖尿病症状(口渇、多尿、体重減少、高血糖)

        3)閉塞性黄疸(腫瘤形成による)

 

c.膵癌*6*13*15

[概念]    1)膵臓原発の悪性腫瘍で、膵管上皮に発生するものが多い*13

        2)インスリノーマ、グルカゴノーマなどの内分泌腺から発生した腫瘍がある

[分類]    発生部位によって、膵頭部癌、膵体部癌、膵尾部癌に分ける

[疫学]    1)死因統計では、男性が悪性腫瘍の第5位、女性が第6位(2005)

        2)高齢男性に多い*13

        3)内分泌腫瘍はまれ

[病態]    1)原因不明(アルコール、喫煙、コーヒー、糖尿病、慢性膵炎との関連が報告)

        2)遺伝子変異の可能性が示唆されている

[症状]    1)初期:無症状のことが多いが、膵頭部癌は早期から閉塞性黄疸が発現*13

        2)進行時:心窩部痛*6食欲不振*6、下痢、体重減少*6、黄疸、褐色尿、二次性糖尿病症状(口渇、多尿、体重減少、高血糖*15)

[予後]    1)早期診断が困難で予後不良

        2)転移のない切除可能例の5年生存率は40%程度であるが、転移のあるものは3年生存率でも10%程度である

[所見]    1)血清アミラーゼ*6高値、尿中アミラーゼ高値

       2)血清腫瘍マーカーとしてCA19-9*13CEA*15が陽性となる

 

 

章 呼吸器疾患

A.感染性呼吸器疾患

a.かぜ症候群

[概念]    上気道(鼻、咽頭、喉頭)の急性カタル性炎症の総称

[疫学]    1)空気が乾燥する冬に発病しやすい

        2)高齢者よりも若い成人が罹患しやすい

[病因]    1)ウイルス(90〜95%)、細菌、マイコプラズマなどが病原体となる

        2)病原体の頻度は、ライノウイルスが約30、アデノウイルス群が1O〜15、コロナウイルスが10前後、そのほかのウイルス群が5、未知のウイルスが30〜40で、細菌では連鎖球菌群の関与が5程度である

        3)鼻症状が強い場合:ライノウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルスの感染

        4)咽頭痛や喉頭発赤などの咽喉頭症状が強い場合:アデノウイルス、エンテロウイルスの感染

        5)乾性咳嗽、ついで痰がみられる場合:マイコプラズマの感染

[症状]    1)鼻症状(鼻水、鼻づまり、くしゃみ)

        2)咽喉頭症状(のどのイガイガ感、咽頭痛、嗄声)

        3)咳嗽・喀痰(気管支や肺の炎症時)

        4)発熱・悪寒

[予後]    1)臨床症状は少なくとも1週間以内に自然治癒し、発熱も3日以上続くことは少なくインフルエンザを除けば38℃以上の発熱を認めることも少ない

        2)かぜ症候群は細菌の二次感染を伴うことが多い急性肺炎ではウイルス感染によるかぜ症候群の先行があって、二次的に細菌性肺炎をきたす場合がほとんどである

        3)二次感染の起炎菌はインフルエンザ菌、肺炎球菌、ブドウ球菌、連鎖球菌が多く、十分量のペニシリン系抗生物質が有効である

 

b.急性気管支炎

[概要」    1)かぜ症候群から続発して発症する

        2)ウイルス感染が主であり、細菌感染の頻度は7〜44程度

        3)細菌による気管支炎の二次感染の起炎菌はインフルエンザ菌や肺炎球菌が多い

[疫学]    冬期に多い

[病因]    1)かぜ症候群の病因ウイルス(アデノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなど)

        2)時に咽頭内の細菌

[症状]    1)発熱・咳嗽を主症状とする

        2)白色漿液性喀痰(ウイルス感染の気管支への波及)

        3)黄色〜黄緑色膿性痰(細菌性二次感染を合併した場合で、痰の量も増加)

        4)湿性・湿性ラ音の聴取

 

c.肺炎*4*9*12

[概要]    1)飛沫感染で入り込んだ病原体(細菌が大部分)により肺胞腔内で炎症をきたす状態である

        2)かぜ症候群から二次感染で肺炎を併発する場合も多く、高齢者では致死的疾患となる

[疫学]    1)肺炎による死亡率は、10万人比で65〜69歳は45人、75〜79歳は265人、85〜89歳は1,332人(2005)と、加齢とともに死亡率は著しく増加する

        2)社会の高齢化に伴い、肺炎による死亡者数が増加しており、年間約10万7千人(2005)が肺炎で死亡している

[分類]    1)肺胞性肺炎、2)間質性肺炎

[病因]    1)細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、肺炎杵菌、モラキセラ・カタラーリス、マイコプラズマ*9)が中心であるが、クラミジア、ウイルスなども含まれる

        2)病原体別頻度では、肺炎球菌がもっとも多く、若年成人はマイコプラズマが*9、高齢者ではインフルエンザ菌がそれに続く

[症状]    1)発熱

        2)咳嗽・喀痰(細菌性肺炎では膿性痰、マイコプラズマ肺炎では痰は少なく白色で、頑固な空咳が中心*9

        3)呼吸困難

        4)肺炎では胸痛は認めない胸膜炎の合併で発現)

[所見]    感染症の有無の検査:赤沈亢進*4*12白血球増加*12(好中球増加*4)、CRP陽性*4*12

 

d.肺結核*1*12*17

[概要」    1)ヒト型結核菌による肺感染症

        2)AIDSなどの免疫能の低下がなければ、感染しても発病する率は約10と低い

[疫学]    1)わが国において他の先進国と比べて患者が多く、減少率の鈍化もみられ、いまだ重要な感染症である

        2)年間2万8千人が新たに結核と診断されている(2005)

[病因]    空気感染による結核菌の感染*1

[病態]    結核菌→気管支末梢・肺胞で定着(初感染病巣)→リンパ→肺門リンパ節(初感染結核)→多くは自然治癒(95%)→免疫が低下すると再増殖→二次結核が発現(約5%)

[症状]    1)全身症状(微熱*1*17、寝汗、倦怠感)

        2)呼吸器症状(咳嗽*17喀痰*17、血痰)    

        胸痛はみられない*17(胸痛発現は胸膜へ波及を示す)

[所見]    1)胸部X線写真*1:肺野に浸潤影を認める

        2)喀痰*1培養・胃液培養:約2週間で検出できる

[予防]    BCGワクチン*12を接種して結核菌に対する免疫をつけて結核を予防(免疫効果は15年くらい有効)

[予後]    AIDSや糖尿病などの免疫が低下する疾患を合併していると再発率は高くなる

 

B.閉塞性呼吸器疾患

        障害部位が気道中心の場合を慢性気管支炎とし、肺胞中心である場合を肺気腫としている.しかし、両疾患の境界は不明瞭であり、両疾患の特徴を有する症例も多く存在するため両疾患を合わせて慢性閉塞性肺疾患(chronicobstructivepulmonarydisease;COPD)と呼ぶ

 

a.肺気腫*3*4*6

[概要」    1)肺胞壁の破壊を伴う終末細気管支より末梢の気腔の異常な拡大が特徴

        2)慢性期気管支炎とともに慢性閉塞性肺疾患に分類される。

[疫学]    1)慢性閉塞性肺疾患患者の死亡者数は13,000人(2003)であり、ここ30年で約4倍に増加している

        2)わが国での死因の第10位であり、米国での第4位に比べ明らかに少ないが、これは診断されていない症例が多いためと推測されている

[病因]    肺胞組織を破壊し、過膨張させるような因子が重なった場合が原因となる

        1)持続的な気管支・肺胞への刺戟(喫煙*6・大気汚染・有毒ガス)

        2)長期間肺胞を伸展させる要因(慢性気管支炎*3*6、咳嗽、管楽器吹奏者など)

        3)加齢*6

        4)α-1アンチトリプシン5欠損症(遺伝性素因で欧米に多い)

[症状]    1)労作時呼吸困難(呼気困難となり、進行すれば安静時でも出現)

        2)口すぼめ呼吸(呼気時に口をすぼめて、内圧を維持しながらゆっくり呼出する)

        3)進行すると右心不全(肺性心)

[所見]    1)呼吸音減弱、2)ビール樽状胸*4、3)太鼓ばち指、4)肺野の打診で鼓音(過共鳴音)

        2)肺機能検査:肺の閉塞性変化(1秒率の低下*4、全肺気量、残気量の増加、気道抵抗増加)

        3)胸部X線検査:肺の過膨張と透過性の亢進*4がみられる

        4)血液検査:動脈血酸素分圧の低下、炭酸ガス分圧の増加

[治療]    1)禁煙がもっとも有効かつ重要な治療法である

        2)呼吸訓練(腹式呼吸、口すぼめ呼吸)、運動リハビリ(筋力低下の予防)

[予後]    1)根本的に治癒しない病気であり、年の単位で肺機能が低下し、労作時の息切れから安静時息切れへと進行

        2)肺炎を合併しやすく、最終的には呼吸不全で亡くなる場合が多い

 

b.慢性気管支炎*4*13*14

[概要」    1)1年間に3カ月以上続く咳嗽や喀痰が、2年間以上続いている状態*13をいう

        2)肺気腫とともに慢性閉塞性肺疾患*13に分類される。

[疫学]    喫煙者がほとんどで、中年以降に多い

[病因]    喫煙*4*14により気道分泌が増加した状態で、気管支壁の肥厚や拡張も認めることが多い

[症状]    1)慢性の湿性咳嗽*13・喀痰(膿性痰が中心で喀痰量も多い)

        2)呼気性呼吸困難

[検査]    肺機能検査:肺の閉塞性変化(1秒率の低下、全肺気量、残気量の増加、気道抵抗増加*4)

[治療]    1)禁煙*13がもっとも有効かつ重要な治療法である

        2)体位ドレナージやタッピング法による去痰の徹底を行う

[予後]    1)進行すると肺気腫の要因が混在し、肺性心が出現する

        2)痰が十分に喀出しきれなくなって肺炎を合併しやすく、最終的には呼吸不全で死亡する場合が多い

 

c.気管支喘息*7*17

[概要」    気道の炎症*17に可逆性狭窄*17が加わり、発作性の咳嗽*17呼吸困難*17と喘鳴を特徴とする閉塞性換気障害*17が生じる疾患

[疫学]    1)気管支喘息による死亡率はわずかに減少傾向を認めるものの、年間約4千人の死症例(2001)が出ている

        2)発症年齢*7は2相性を呈し、小児喘息では乳児期に発症が多く、40~50代にまた発症が多い

        3)好発季節は秋が一番多く、好発時間は夜中から明け方に多い

[分類]    1)外因型(アトピー型)        :外因性のアレルゲンに対してIgE抗体を認める型

        2)内因型(非アトピー型)    :感染などを契機に発症

        3)混合型:外因型・内因型の混合

        4)その他:職業性喘息、アスピリン喘息、運動誘発性喘息、咳喘息

[病態]    1)喘息患者のうち小児で90、成人では60の割合でアトピー性素因を有し、アレルギー機序を介して発症すると考えられている.原因抗原としてダニ、ほこり、カビ、ペットなどの室内アレルゲンが重要である

        2)アレルゲン暴露による喘息反応

            (1)即時型喘息反応(肥満細胞からのロイコトリエン等による気道平滑筋収縮)

             アレルゲン吸入10分後から出現し、3時間以内に消失する

            (2)遅延型喘息反応(好酸球やリンパ球が主体の気道炎症で気道収縮、分泌増加)

             アレルゲン吸入後4〜6時間後から出現し、24時間以内に消失する

[症状]    1)発作性の咳嗽・喘鳴を伴う呼吸困難(呼気に著明で、呼気が延長する、呼気性呼吸困難がみられる)

        2)重症時には起坐呼吸、チアノーゼ

        3)喘息重積発作では致命的となり、咳は抑制され、呼吸音は減弱し、起坐呼吸となる

[所見]    1)聴診上、笛声音が呼気時に強くきこえる

        2)樽状胸郭(幼児期から喘息発作を繰り返してきた患者の発作時にみられる)

        3)喘息発作時には、低酸素血症*7、低炭酸ガス血症、呼吸性アルカローシスを認める

[予後]    気管支瑞息はコントロールする疾患であり、治癒しない*7

 

C.拘束性呼吸器疾患

a.特発性肺線維症*13*15(間質性肺炎)

[概要]    何らかの原因により肺胞の胞隔に炎症・線維化をきたし、重篤な呼吸障害を生じる疾患

[疫学]    男性にやや多く、60歳代がもっとも多い*15

[病態]    1)酸素や炭酸ガスが通過する場である肺胞壁(間質)の肥厚により酸素の取り込みが低下し、肺の柔らかさが低下(コンブライアンス低下*15)するため肺機能検査で拘束性障害を呈す

        2)肉眼的には蜂の巣状の変化(蜂巣肺)をきたす

        3)危険因子として、(1)喫煙、(2)薬剤、(3)慢性誤飲、(4)環境因子(粉塵暴露)、(5)感染(ウイルス感染など)が知られている

[症状]    1)乾性咳嗽*13、呼吸困難(労作時の息切れから始まり、経過とともに進行)

        2)チアノーゼ、太鼓ばち指

        3)感冒様症状(急速に進行する場合)

        4)胸痛はみられない*13

[診断]    1)胸部X線写真:肺の含気低下、粒状網状影や線状影、輪状影を認める

        2)血液検査:赤沈亢進、KL-6、SPDが間質性肺炎の指標であり高値を示す

        3)肺機能検査:肺活量減少*13、拡散能の低下(拘束性障害)を示す

[予後]    1)進行すると低酸素血症による右心不全症状(むくみ、食欲低下など)を呈する

        2)特発性肺線維症(IPF)は、5年間で約半数が呼吸不全にて死亡する予後不良な疾患である

 

D.その他の呼吸器疾患

a.気胸*1*16

[概要]    胸膜腔に空気が貯留した状態

[分類・疫学]

        1)原発性自然気胸(肺の胸膜直下のブレブ6あるいはブラ7の破壊)

            若年者*16(lO〜30歳)で、背の高いやせ型男性で喫煙者*16に多い

        2)続発性自然気胸(肺気腫や間質性肺炎などの基礎疾患に合併)

[症状]    突然出現する

        1)胸痛

        2)乾性咳嗽(空咳、刺激性咳嗽*1

        3)呼吸困難

[予後]    1)縦隔が健側に偏位して血圧低下をきたす緊張性気胸は緊急処置が必要

        2)自然気胸は再発しやすい*16(約50%)

 

b.肺癌*5*10*16

[定義]    気管支粘膜上皮から肺胞領域に発生する上皮性悪性腫瘍

[疫学]    1)1981年以降、胃癌が男女とも死亡率第1位を占めてきたが、1993年からは男性は第1位。女性では胃癌、大腸癌に続き第3位

        2)男女比は男3:女1

[病因]    原因不明であるが、喫煙・大気汚染(排気ガス、煤煙、放射性物質など)、アスベスト、珪酸、クロム、ニッケルなどが誘因と考えられている

分類]

 

1.扁平上皮癌

2.腺癌

3.大細胞癌

4.小細胞癌

a.発生頻度

29.8%

51.2%

5.1%

11.9%

b.発生部位

気道中枢側

末梢肺野

末梢肺野

気道中枢側

c.喫煙の関連

高い

低い

低い

高い

 

[症状]    1)咳嗽、2)喀痰・血痰、3)胸痛、4)呼吸困難、5)全身症状(発熱、倦怠感、体重減少)

[合併]    1)腫瘍拡大:上大静脈症候群*58、パンコースト症候群9嗄声*510嚥下障害*10

        2)脳転移:意識障害、頭痛、麻痺、痙攣

        3)骨転移:骨折、骨疼痛

[検査]    胸部X線検査、胸部CT検査*10喀痰細胞診*10気管支ファイバースコピー*10

 

c.気管支拡張症

[概要]    気管支壁が破壊され、気管支の一部が永続的に拡張した状態

[疫学]    小児期に肺炎や副鼻腔炎の既往がある場合が多い

[分類]    1)嚢状気管支拡張(小児期に肺炎などの既往があり痰はあまり出ない)

        2)円柱状気管支拡張(副鼻腔炎の合併があり膿性痰が多量に喀出される)

        喀痰が増えた時期では、気道内に細菌(インフルエンザ菌、緑膿菌、肺炎球菌、モラキセラ・カタラーリスなどのうち1つもしくは複数)が常在するようになる

[病因]    1)小児期の気道感染

        2)線毛運動の機能異常

        3)免疫不全

[症状]    1)咳嗽と喀痰(多量の粘性、粘膿性)、血線条痰(血混じり痰)、血痰、喀血

        2)呼吸困難、喘鳴、胸痛(進行時)

[所見]    1)呼吸音は湿性ラ音や断続性ラ音、喘鳴を聴取する

        2)気管支拡張の大部分は下葉にみられる

[検査]    胸部X線写真、胸部CT写真:気管支壁の肥厚や拡張所見を認める

 

*.過換気症候群*11

[概要]    過換気による二酸化炭素(CO2)の過剰排泄により動脈炭酸ガス分圧が低下し、呼吸性アルカローシスを呈する病態

[原因]    心因性ストレス

[症状]    1)胸内苦悶感と呼吸困難

        2)心悸亢進

[症状]    1)胸内苦悶感と呼吸困難

        2)心悸亢進

        3)神経症状(しびれ*11や知覚異常(四肢末端、顔面)、全身のテタニー様筋けいれん,手指の硬直)

 

*.扁桃肥大

[概要]    扁桃組織の肥大したもの

[症状]    1)咽頭扁桃肥大:いびき*10、滲出性中耳炎による難聴*10アデノイド顔貌*10

        2)口蓋扁桃肥大:嚥下困難,呼吸困難,音声障害

        3)舌扁桃肥大    :咽頭,喉頭部の異物感,時に咳嗽発作

 

 

第5章 腎・尿器疾患

A.原発性糸球体腎炎

*.急性糸球体腎炎*5*14

[概要]    1)A群β溶血性連鎖球菌の感染*14に続発する抗原抗体反応によって発症する

        2)腎疾患に先行する感染としては、扁桃炎、咽頭炎が大部分を占める

[疫学]    1)男女比は2:1と男児に多く、好発年齢は3〜12歳

        2)生活環境の改善、保健衛生知識の普及、抗生物質の進歩などで減少している

[病因]    A群β溶連菌によるⅢ型アレルギーによる(抗原抗体複合体が腎に沈着して腎炎が発症)

[症状]    1)上気道感染(扁桃炎など)の1〜2週後に発症*14する

        2)全身症状:倦怠感、食欲不振、咽頭痛、悪心・嘔吐、下痢、便秘など

        3)主症状:

            (1)浮腫    :初期には顔面特に眼瞼周囲

            (2)高血圧*5    :腎炎寛解とともに低下

            (3)血尿*5    :必発(肉眼的→30〜50%)

        *)尿量減少:乏尿*

        *)蛋白尿    :一般に軽度

        *)高カリウム血症

[検査]    1)ASO(抗ストレプトリジン0)が高値を示す

        2)血清補体価低下*14

[治療]    食事療法としては、乏尿期には、厳重な飲水制限(前日の尿量+500ml)、塩分制限(3g/日以下)、蛋白質制限*14(25g/日以下)を行う尿量が増加して浮腫が改善してくれば、水分制限は必要なく、塩分の制限を緩め、蛋白質も徐々に増やす

予後]    1)一般に予後は良好で3カ月以内に完全寛解となる

        2)ただし、成人の30〜40、小児の20以下で慢性化する

 

*.慢性糸球体腎炎*5

[概念]    血尿、たんぱく尿が通常1年以上にわたって続く原発性の糸球体疾患

[分類]    1)潜在型:蛋白尿が軽度(1g/日以下)で血圧も腎機能も正常

        2)進行型:蛋白尿が高度で、高血圧、腎機能障害を伴う

[病因]    急性糸球体腎炎と同様

[症状]    1)潜在型:蛋白尿、血尿

        2)進行型:蛋白尿、血尿、高血圧*5、腎機能障害

[治療]    1)潜在型では生活や食事を規制する必要はないが、激しいスポーツや過労を避けるようにする

        2)進行型では、腎機能に応じた生活規制と食事制限(たんぱく質、塩分制限)を行う

[予後]    1)潜在型は予後がよく、長年にわたって腎機能が保持される

        2)進行型では進行性に腎機能が悪化し、重症例では数年以内に腎不全で死亡することもある

 

b.ネフローゼ症候群*5*13

[概念]    糸球体基底膜の透過亢進が生ずる病態

[疫学]    1)小児では予後良好な微小変化型が80〜90ともっとも多い

        2)成人では、微小変化型が約35%、膜性腎症が約25%である

[病因]    腎疾患から生じる一次性と、糖尿病や膠原病などの全身疾患に付随して発症する二次性がある。

[症状]    1)蛋白尿(3.5g/日以上)

         2)低蛋白血症*1311(血清総蛋白6.0g/dl以下、アルブミン3.0g/dl以下)

        3)高脂血症*1312(総コレステロール250mg/dl以上)

        4)浮腫*13

        *)高血圧はみられない*5

[治療]    食事療法として、浮腫、高血圧のある場合には食塩を制限し、水出納バランスを維持する.エネルギーは35kcal/kg/日程度と高エネルギーにし、蛋白は腎機能障害の程度に応じて制限する

 

B.腎不全

a.急性腎不全*16

[概念]    腎機能が急速に低下して体液の恒常性が維持できなくなり、急速な高窒素血症の進行、尿毒症症状、電解質異常、代謝性アシドーシスなどをきたす病態である

[疫学]    高齢者での発症頻度が高い

[病因]    1)腎前性(腎血流量の減少)    :心不全、体液減少(脱水*16)、低蛋白血症など

        2)腎性 (腎実質障害):糸球体腎炎*16、間質性腎炎、ミオグロビン尿症*16など

        3)腎後性(尿路閉塞):尿路結石*16、前立腺肥大、悪性腫瘍など

[症状]    1)発症期:原因により長短は異なり、症候は原疾患による

        2)乏尿期:乏尿・無尿、浮腫、高血圧、食欲不振、意識障害、

                   血清クレアチニン値上昇、血清尿素窒素(BUN)上昇、

                   血清カリウム値上昇

        3)利尿期:多尿、脱水、血清ナトリウム値低下、低カリウム血症

        4)回復期:種々の症状が軽快し、腎機能も正常化

[予後]    1)腎前性では、適切な治療を行えば数日で回復する

        2)腎性では、高齢者や多臓器不全を伴う例などでは予後が悪く、死亡率は約50である

        3)腎後性では尿路が開通すれば改善する

 

b.慢性腎不全*3*4*11

[定義]    数ヶ月あるいは数年以上にわたって持続的に腎機能が低下し、体液の恒常性が保てなくなった状態をいい、通常腎機能の回復は望めない

[病因]    1)慢性糸球体腎炎、糖尿病、腎硬化症、嚢胞腎、慢性腎孟腎炎の順に頻度が高い

        2)増悪因子として、高血圧、高蛋白食、高リン食、脂質異常症などがある

[症状]    尿毒症、心不全、心外膜炎、末梢神経障害、高カリウム血症、代謝性アシドーシス*3(酸の排出障害による)

[合併]    1)高血圧(必発)

        2)貧血(比較的早期から正球性正色素性貧血が生じる)    

[検査]    1)血液生化学検査:BUN(血清尿素窒素*3*4)高値、クレアチニン高値、ナトリウム低値、カリウム高値*3*11カルシウム低値*11、リン高値、尿酸高値*3*14クレアチニンクリアランス値低下*3血清クレアチニン高値*3

        2)腎機能:尿濃縮力低下*3糸球体濾過値(GFR)低下*11血中エリスロポイエチン低下*11(腎で産生される赤血球産生促進ホルモン)

 

C.感染症

a.腎孟腎炎*6*8

[概念]    細菌感染により腎孟腎杯、腎間質に炎症の起きた病態をいう

[疫学]    小児男児、若年女性、高齢男性に多い

[病因]    1)膀胱からの逆行性感染で起こる

        2)起炎菌としては大腸菌が多い

        3)誘因:尿路奇形13(小児))、膀胱尿管逆流*8や神経因性膀胱、尿路結石*8や腎尿路系腫瘍、腎尿路奇形、前立腺疾患(高齢男性)、性活動・妊娠(女性)

[症状]    1)発熱(悪寒戦傑を伴う38℃以上の発熱)

        2)腰痛、腰部叩打痛

        3)膿尿(尿混濁)

        *)慢性腎盂腎炎では、活動期は急性腎孟腎炎と同様な症状を示し、非活動期には、無症状のことが多い。

[検査]    尿検査:細菌尿*6、白血球増加(白血球円柱*6)、蛋白尿*6

 

b.膀胱炎*2*4

[概念]    膀胱粘膜と粘膜下組織が炎症を起こす疾患

[疫学]    女性に多く、女性の半数が生涯に1〜2回罹患するとされる男性では、まれである

[病因]    1)大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌が外陰部から尿道を経由して上行性に感染して発病する急性単純性膀胱炎が多い

        2)膀胱癌、膀胱結石、神経因性膀胱、さらに男性では前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、女性では尿道憩室などの基礎疾患があると、再発しやすしかつ難治性の膀胱炎になりやすい

[症状]    1)頻尿*2*4、2)排尿痛、3)残尿感、4)尿混濁(膿尿)、5)血尿

 

E.結石症

a.腎・尿管結石症*2*9

[概念]    1)尿石が尿路系(腎杯〜外尿道口)に存在し、症状を生じるものをいう

        2)副甲状腺機能亢進症では5〜20%に尿路結石がみられる

[疫学]    20〜50歳代に好発し、男女比は2〜3:1である

[病因]    シュウ酸カルシウム結石が結石症全体の約90と多く、そのほかリン酸カルシウム結石、尿酸結石などがある

[症状]    1)疝痛*2発作(腰背部から側腹部*2、下腹部に放散)

        2)血尿*9

        3)結石排出

        4)膀胱刺激症状(尿意切迫感、残尿感、頻尿)

        5)自律神経症状(悪心・嘔吐、冷や汗)

 

F.前立腺疾患

a.前立腺肥大*1*2

[概念]    前立腺の移行領域(尿道周囲腺)に発生する良性腫瘍。

[疫学]    高齢者に多い*280〜90歳男性の90以上に潜在癌がみられる

[病因]    腺腫は腺上皮および間質細胞の増殖によって生じ、男性ホルモンのテストステロンから生成されるジヒドロテストステロンが重要な役割を演じる

[症状]    1)残尿感(飲酒によって増強*1

        2)頻尿

        3)尿閉*4

        4)排尿困難(遷延性排尿)

[所見]    直腸内指診:正常な硬さ*1

[治療]    薬物療法、経尿道的前立腺切除術など(前立腺がんと異なり、性腺は切除しない*1

 

b.前立腺癌

[概念]    前立腺、おもに前立腺外腺より発生する癌である

[疫学]    老年者に多い

[病因]    原因不明で、95以上は腺癌で、まれに粘液癌、移行上皮癌がある

[症状]    1)初期:無症状

        2)進行時:排尿困難、頻尿、夜間頻尿、残尿感、血尿、排尿痛など

[治療]    精巣摘除術とエストロゲン投与による内分泌療法,外科療法(前立腺全摘出術),放射線療法,化学療法などが行われる.

 

*.神経因性膀胱

[概要]    神経の障害で下部尿路機能が障害され、蓄尿症状や排尿症状が現れる病態をいう。

[症状]    1)蓄尿障害:尿失禁(切迫尿失禁*4、反射性尿失禁、真性尿失禁)、頻尿(昼夜の区別なし)

        2)排尿障害:排尿困難、残尿による頻尿、尿閉、溢流性尿失禁(尿閉状態で失禁する)

        3)尿意の障害:末梢神経の障害、仙髄排尿中枢の障害で生じる.

 

*.腎硬化症*4

[概念]    高血圧*4による腎障害のことで、腎内の小動脈の硬化(内膜の肥厚),細動脈硬化(硝子化)および糸球体硬化からなる病変である

 

章 内分泌疾患

A.下垂体疾患

a.クッシング病

[概要]    糖質コルチコイド(グルココルチコイド)であるコルチゾールの過剰によって種々の代謝異常をきたす疾患をクッシング症候群といい、このうち副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生する下垂体腫瘍によって起きる疾患をクッシング病という

[疫学]    過去5年間でのクッシング病の発生は287例が報告されており、クッシング症候群のうちの約40%を占める

[病因]    下垂体に発生した腺腫がACTHを過剰に産生し、これが副腎皮質を刺激してコルチゾール14の分泌を促す

[症状]    1)肥満(中心性肥満)

        2)満月様顔貌

        3)高血圧

[検査]    血液検査:血中ACTH濃度が上昇し、血中コルチゾール濃度高値

        脳CT検査・MRI検査:下垂体腺腫が確認

[治療]    下垂体腺腫を摘出する。手術無効例や再発例には放射線照射を行う

 

b.先端巨大症、巨人症*5*14

[概要]    1)成長ホルモン(GH)の過剰によって、骨、結合組織、内臓の過剰な発育をきたす疾患

        2)GHの過剰な分泌が骨端線の閉じる前に起これば下垂体性巨人症になり、骨端線が閉鎖した後に起これば先端巨大症になる

[疫学]    比較的まれな疾患で、人口100万人当たりに40人程度と推定される

[病因]    1)ほとんどは、下垂体腺腫によってGHが過剰に産生・分泌される

        2)まれではあるが、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を異所性に産生する腫瘍(膵島腫場、気管支カルチノイドなど)によって起きることもある

[症状]    1)下垂体腺腫圧迫症状:頭痛、嘔吐、視野障害

        2)GH過剰分泌症状:

            (1)全身症状:発汗亢進*14、体重増加、四肢肥大など

            (2)顔面部:眼窩上縁突出、下顎突出、鼻・口唇・舌の肥大*5などがある

            (3)高身長(巨人症)

            (4)内臓肥大、心筋障害、高血圧*14

        3)GH以外の下垂体ホルモン欠損症状:性腺機能低下症

        4)プロラクチン分泌亢進併発時:無月経*14、乳汁分泌亢進

[検査]    X線単純撮影でトルコ鞍の風船状拡大

        CT・MRI検査:下垂体腺腫を描出する

[治療]    可能なら下垂体腺腫の摘出手術を行う.手術ができない場合には、ソマトスタチン誘導体などで薬物療法を行う

[予後]    未治療の場合には、悪性腫瘍の腫瘍内出血、脳実質圧迫、糖尿病、心不全、下垂体機能低下などが死因になり、平均余命は13年である

 

c.成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性低身長症*16)

[概要]    下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)の分泌低下によって成長が抑制され、低身長になる病態である

[疫学]    人口3万人に対して約1人の割合で、男女比は3:1である

[病因]    1)GHの分泌が低下するため骨の長軸方向への成長が障害される

        2)器質的障害がはっきりしない成長ホルモン分泌不全性低身長症(特発性低身長症)が約80%*16で、頭蓋咽頭腫*16による成長ホルモン分泌不全性低身長症(器質性低身長症)が約20%である

[症状]    1)同年齢の平均身長−2SD(標準偏差)以下を低身長と定義する

        2)身体のバランスはとれている*16

        3)知能発達障害はみられない*16

[検査]    1)血液検査:血中GH濃度の低下がある

        2)CT、MRI検査:下垂体茎の切断や空虚トルコ鞍のみられることがある.頭蓋咽頭腫による器質性(成長ホルモン分泌不全性)低身長症では、トルコ鞍上に腫瘍を認める

 

d.尿崩症*1*12*15

[概要]    下垂体後葉機能の低下により、抗利尿ホルモン(ADH、パソプレシン)の分泌低下*1が生じ、遠位尿細管と集合管で水の再吸収が障害され多尿が出現する

[病因]    原因が明らかでない特発性尿崩症が約39%、脳腫瘍・外傷・脳外科手術・脳出血などに起因する続発性尿崩症が約60%、そして家族性尿崩症が約1%である

[症状]    1)口渇*12

        2)多飲*12

        3)多尿(低比重尿*12低張尿*15

[検査]    負荷試験:高張食塩水試験、水制限試験を行っても尿量の減少や尿浸透圧の上昇がみられない*12ことが特徴で、心因性の多飲症と区別する

 

B.甲状腺疾患

a.甲状腺機能亢進症*1*5*6*10*14*15(バセドウ病)

[概要]    抗甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体抗体による自己免疫疾患*14で甲状腺機能の亢進、交感神経系の亢進がみられる

[好発]    男女比=1:4で女性に多く*1、20〜50歳に好発

[症状]    1)メルゼブルグの三徴候

            (1)1️⃣眼球突出*5(50%)

            (2)甲状腺腫大(95%)

            (3)頻脈(90%)

        2)その他

            (1)一般症状:全身倦怠感、神経質、微熱、下痢など

            (2)精神神経症状:振戦*6(90%)、(不安感)

            (3)皮膚症状:発汗過多(90%)

            (4)代謝亢進症状:体重減少、暑がり、(食欲亢進)

            (5)循環器症状:動悸、息切れ

[所見]    1)グレーフェ徴候:上方から下方を見る時に上眼瞼の下に白い強膜がみえる

        2)メビウス徴候:輻輳障害

        3)ステルワグ徴候:瞬目減少

[合併]    1)甲状腺クリーゼ(高熱、甲状腺症状の増悪、意識障害が生じ死亡率が高い)

        2)周期性四肢麻痺*10(繰り返して発作性に四肢弛緩性麻痺を起こす)

        3)重症筋無力症

[検査]    血液検査:抗マイクロゾーム抗体、抗サイログロプリン抗体、抗TSH受容体抗体が高率に陽性になる.そのほか血液生化学検査で、アルカリホスファターゼの上昇、総コレステロール低値*15などが認められる

[治療]    薬物療法(抗甲状腺薬)、放射性ヨード治療、科的療法が行われる

[予後]    バセドウ病は抗甲状腺薬で平均2年くらいで寛解になるが、投薬を中止すると2年以内に40〜60%くらいが再発する.プランマー病(中毒性結節性甲状腺腫)などの腺腫に対しては、外科手術をする

 

b.甲状腺機能低下症*1*3*4*5*13*16(粘液水腫)

[概要]    1)甲状腺機能低下*3*4(甲状腺ホルモンの分泌低下*1・感受性低下)による種々の症状をきたす病態である

        2)先天性の甲状腺機能低下症で身体ならびに精神の発達が遅延した病態を、クレチン病と呼ぶ

[病因]    1)甲状腺自体に異常がある原発性

        2)下垂体もしくは視床下部に病変のある中枢性

        3)末梢組織での甲状腺ホルモンレセプター異常によるホルモン不応性

[症状]    1)一般症状:全身倦怠感、易疲労感、体重増加、便秘*13など

        2)精神症状:記憶力減退、活動性低下、言語緩慢*13

        3)代謝低下症状:寒がり*4、低体温

        4)循環器症状:徐脈、息切れ、低血圧

        5)皮膚症状:非圧痕性浮腫、発汗減少(皮膚乾燥)、浮腫性顔貌*5

        6)その他:嗄声*13、眉毛の外側1/3の脱毛、巨大舌、頭髪脱毛、月経異常

[検査]    血液検査:甲状腺ホルモン低下、TSH(甲状腺刺激ホルモン)高値*4*16、血清総コレステロール、トリグリセリド、AST(GOT)、CK(CPK)、LDHなどが高値、貧血も認められる

 

c.慢性甲状腺炎*14(橋本病)

[概要]    自己免疫学的機序によって発生する慢性甲状腺炎

[疫学]    1)女性の10人に1人という高い頻度でみられ、男女比は1:20以上

        2)好発年齢:30〜50代の中年女性での発症が多い

[病因]    原因は不明である

[症状]    1)びまん性甲状腺腫大(←症状のない場合の主症状)

        2)甲状腺機能低下症状15

        3)一般症状(全身倦怠感など)

        4)一時的な甲状腺機能亢進症がみられることがある16

[検査]    抗サイログロプリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体など血中抗甲状腺抗体陽性

[予後]    慢性の経過をたどり、病変が進行することはあっても完全に治癒することはない

 

C.副腎疾患

a.副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群*7*17)

[概要]    慢性のコルチゾール分泌過剰によって起きる症候群である.

[疫学]    男女比は1:6〜7で女性に多く、40歳代に発病のピークがある

[病因]    1)副腎皮質の腫瘍(ほとんどが腺腫、まれに癌)によるコルチゾール過剰分泌50%

        2)原発性副腎皮質過形成(異形成)

        3)下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)過剰分泌(クッシング病)約40%

        4)腫瘍による異所性ACTH産生がある

[症状]    1)中心性肥満(満月様顔貌、水牛様脂肪沈着)

        2)皮膚の萎縮と赤色皮膚線条(たんぱく質異化作用による)

        3)糖尿病(糖代謝異常による高血糖*17

        4)骨粗鬆症、病的骨折(骨吸収促進による)

        5)筋力低下、筋萎縮、

        6)高血圧*7多毛*17、痤瘡、月経異常

        7)不眠・不穏・うつ状態

        8)感染症にかかりやすい(疫機能低下のため)

[検査]    CT、MRI検査:副腎腫瘍、下垂体腺腫

[治療]    1)副腎腫場:副腎の摘出術を行う.

        2)原発性副腎皮質過形成:両側副腎を摘出し、ヒドロコルチゾンを補充する.

        3)下垂体腫場:摘出術、放射線照射、薬物療法などを行う.

        4)異所性ACTH産生腫場(肺癌など):可能ならば手術を行う.手術できないときには薬物療法を行う.

 

b.原発性アルドステ口ン症*7*8*10*13*15*17(コン症候群)

[概要]    副腎皮質の球状帯に腺腫、癌、過形成などといった原発性病変があり、その結果アルドステロンが過剰に分泌されて起きる病態である

[疫学]    1)20〜40歳代に多い

        2)高血圧症のO.5〜1を占める

[病因]    過剰に分泌されたアルドステロンが腎臓の遠位尿細管および集合管に作用し、ナトリウムイオンの再吸収亢進*15、カリウムイオンと水素イオンの排泄を促進し、その結果低カリウム血性アルカローシスを伴う高血圧症が発症する.

[症状]    1)高血圧*7*13多尿*13(循環血液量の増加による)

        2)筋力低下、易疲労感、四肢麻痺*8*10*13など(低カリウム血性アルカローシスによる)

        3)その他(耐糖能異常、低Mg血症によるテタニー)

[検査]    血液検査:高ナトリウム血症*13低カリウム血症*10*13*17、血漿レニン活性低値、血漿アルドステロン濃度高値

 

c.副腎皮質機能低下症(アジソン病*3*7*10*13*15)

[概要]    副腎に原発する慢性副腎皮質機能低下を生じる疾患で、副腎皮質ホルモン(アルドステロン、コルチゾール、副腎アンドロゲン)の欠乏、二次的なACTHの増加→メラニン色素産生細胞刺激など)を示す

[病因]    1)副腎結核

        2)自己免疫による特発性副腎萎縮(約半数を占める)

        3)癌の副腎転移

        4)その他(真菌症などによる副腎機能不全)

[症状]    1)一般症状:体重減少、倦怠感、易疲労性*3など

        2)メラニン色素沈着*3*13ACTH増加による*13

        3)低血糖、低血圧*7(コルチゾール欠落による)

        4)女性の腋毛・恥毛の脱落(副腎アンドロゲン欠落による)、

        5)月経障害(無月経*3など)

[検査]    血液検査:低ナトリウム血症、高カリウム血症*10*15(アルドステロン欠落による)、貧血、低血糖

 

d.褐色細胞腫*1*5*7*1

[概要]    クロム親和性細胞(副腎髄質や傍神経節など)から発生する腫瘍で、多量のカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)を分泌する

[疫学]    1)高血圧患者10万人のうち1.4人程度と推定される

        2)男女差はなく、30〜50代に多い.

[病因]    カテコールアミンが過剰に分泌され、交感神経が刺激されて血管収縮、頻脈、心拍出量増加などが起こり、高血圧になる.その結果、高血圧による臓器障害(高血圧性網膜症、心筋障害、腎機能障害など)が発生する。また、カテコールアンは肝臓からの糖放出を増やし、末梢組織でのインスリン抵抗性が生じて耐糖能異常や糖尿病を生じる.

[症状]    1)高血圧*1*5*7*17、頭痛、発汗、高血糖、代謝瓦進、頻脈など(カテコールアミンの交感神経刺激症状)

        2)顔面蒼白、四肢冷感、手指振戦、やせ、腹痛、悪心・嘔吐など

[診断]    1)血液検査:血中カテコールアミン高値、尿中カテコールアミン排世増加、尿中カテコールアミン代謝産物(メタネプリン、ノルメタネプリン、パニリルマンデル酸など)が高値

        2)血液生化学検査:血糖値、遊離脂肪酸、総コレステロールなどが高値

[予後]    1)早期に診断して腫揚を手術で摘出すれば予後は良い

        2)悪性高血圧症を呈しやすく、診断が遅れれば高血圧合併症の進行が早い

        3)悪性腫瘍の場合では、再発や遠隔転移を起こしやすく予後は悪い

 

第7章 代謝・栄養疾患

A.糖代謝異常

a.糖尿病*3*4*5*7*10*15*17

[概要]    インスリン分泌不足もしくはインスリン感受性の低下により、血糖値の上昇をきたし、それに伴って代謝異常を呈する疾患

[疫学]    1)わが国では2型糖尿病が多い

        2)2002年の厚生労働省の調査では糖尿病患者が740万人、予備患者が880万人と推計され、成人の6.3人に1人の割合で糖尿病であるとされる

[分類・病因]

        1)1型糖尿病(インスリンの補充が必須)

            遺伝性素因*3*15に、ウイルス感染*15自己免疫異常*15が加わって発症する

            若年者に多く、非肥満者に発症する

        2)2型糖尿病(インスリンが必ずしも必須でない)

            遺伝性素因に、栄養の過剰摂取、運動不足などの環境因子が加わって発症する

            中年以降の肥満者に多い

        3)その他の型

            甲状腺や副腎疾患による

[症状]    1)口渇、2)多飲、3)多尿*3*5(高比重尿)、4)体重減少など

[合併]    1)視覚障害:網膜症*4*7*10、白内障

        2)腎症*1017腎障害*4):高血圧,浮腫、蛋白尿*3

        3)ニューロパチー*3*4末梢神経障害*7*10):腱反射減弱・消失,知覚障害(下肢知覚鈍麻*17)、多発神経炎、神経痛

        4)自律神経障害(起立性低血圧*14、インポテンツ、瞳孔異常、発汗異常、便秘・下痢などの消化管運動障害)

        5)末梢動脈障害*7足背動脈拍動低下*17、壊疽など

        6)感染症

[検査]    糖検査:尿糖、血糖、HbA1C、ペフルクトサミン、1.5-AG、グリコアルブミンなどが高値になる

 

B.脂質代謝異常

a.高脂血症*7・脂質異常症

[概要]    空腹時のLDLコレステロール*7が140mg/dl以上、HDLコレステロール*7が40mg/dl未満、トリグリセリド*7が150mg/dl以上の場合を脂質異常症という

[疫学]    1)高コレステロール血症は、男性では20.6、女性では24.6で、女性の閉経後は男女差がなくなる

        2)高トリグリセリド血症は男性では16.9、女性では8.8である.

[病因]    1)原発性高脂血症(遺伝的素因により家族性に認められる)

        2)続発性高脂血症(ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症、糖尿病、過食、肥満、長期の飲酒、運動不足など)

[症状]    1)粥状動脈硬化症:狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈硬化症、大動脈癌などを起こしうる

        2)急性膵炎(トリグリセリドが1,000mg/dl以上で起こしやすい)

        3)黄色腫(皮膚、腱などに脂肪が沈着)

[予後]    1)トリグリセリドが400mg/dl以上のL、N、V型では、急性膵炎、脾梗塞など

        2)N、V型では脳梗塞、心筋梗塞などの血栓性疾患を併発しやすい

        3)コレステロールが240mg/dl以上のIIa、IIb、田型では、虚血性心疾患、脱疽、脳梗塞などの粥状動脈硬化性病変を起こしやすい

 

b.肥満症*5

[概要]    1)体内の脂肪組織が過剰に増加した状態を肥満という

        2)肥満症とは、肥満度が20以上、あるいはbodymassindex(BMI)が25以上で、肥満による健康障害がみられたり、肥満が原因となって健康障害を起こす危険性が高いと考えられる場合をいう

[疫学]    1)BMIが30以上の中等度肥満は人口の3〜5、BMIが35以上の高度肥満は人口の約0.3である

        2)睡眠時無呼吸症候群がみられる傾向が高い

[病因]    1)単純性肥満:過食や運動不足が原因で起きる(肥満全体の98〜99%を占める)

        2)症候性肥満:内分泌疾患(クッシング症候群*5、甲状腺機能低下症など)、視床下部障害(間脳腫瘍など)、遺伝性疾患(ローレンス・ムーンービードル症候群など)、薬物(副腎皮質ステロイド薬など)などが原因で起きる

[分類]    1)脂肪の分布から、(1)上半身肥満、下半身肥満、(2)中心性肥満、末梢性肥満、(3)内臓蓄積型肥満、皮下型肥満に分類される.

        2)高脂血症、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患などの肥満にともなう代謝異常は、上半身肥満、中心性肥満、内臓蓄積型肥満のほうが多く発生する.

[症状]    肥満そのものによる症状は乏しい.合併する代謝異常が問題になる

 

C.尿酸代謝異常

a.痛風*3*5*8(高尿酸血症)

[概要]    1)プリン体の代謝異常*3あるいは最終産物である尿酸の排世障害により、体内に尿酸が蓄積し、血中の尿酸値が高い*3*5*8病態を高尿酸血症という

        2)高尿酸血症だけでは無症状であるが、尿酸塩が関節に沈着し、関節炎を起こすと激烈な痛みを生じる.この病態を「痛風」とよぶ

[疫学]    成人男性に多く、成人男性の約1%の頻度で起きる.

[分類・病因]

        1)原発性:原発性は遺伝性素因に環境因子が加わるもので、尿酸産生過剰型と尿酸排世低下型、さらに両方の混合型がある

        2)続発性:悪性腫瘍(白血病、多発性骨髄腫など)、腎不全、薬物(利尿薬など)などが原因で発症する.

[症状]    1)高尿酸血症だけでは症状はない

        2)尿酸結晶が関節内に沈着し、白血球が貧食して炎症反応を起こすと痛風発作となる母祉基関節(第1中足祉節間関節)の発赤、熱感、激痛が特徴

        3)尿管結石、動脈硬化症を併発しやすい.

[診断]    1)血清尿酸値が7.0mg/dl以上を高尿酸血症とする

        2)8.5mg/dl以上になると痛風の発症する確率が高くなる.

[治療]    肥満を是正し、アルコール過飲、肉食中心の食事を控えるよう指導する

[予後]    1)重症の痛風では、関節破壊と腎不全が進行する

        2)痛風患者では心疾患、脳血管障害を合併することが多い

 

D.その他の代謝異常症

a.ビタミン欠乏症*12*15・過剰症

[概要]    1)水溶性ビタミンは、摂取が不足すると欠乏症を起こすが体外への排出が速やかなので過剰症は起こさない

        2)脂溶性ビタミンは脂肪組織や肝臓などに蓄積されて過剰症を起こすことがあるので注意が必要

[症状]    下表中、下線のビタミンが欠乏症を起こしやすい

ビタミン名

欠乏症

水溶性

ビタミンB1*12*15

脚気18ウェルニッケ脳症19*15

ビタミンB2

口角炎、口唇炎、口内炎、舌炎、羞明、流涙、脂漏性皮膚炎

ビタミンB6

口角炎、舌炎、貧血、多発性末梢神経炎、脂漏性皮膚炎

パントテン酸

四肢のしびれ感、足の灼熱感

ナイアシン(ニコチン酸)

ペラグラ(皮膚炎、下痢、痴呆)

葉酸

巨赤芽球性貧血、下痢、舌炎

ビタミンB12

巨赤芽球性貧血、ハンター舌炎、末梢神経炎、亜急性連合脊髄変性症

ビオチン

脂漏性皮膚炎、舌炎、筋肉痛、悪心・嘔吐

ビタミンC

壊血病

脂溶性

ビタミンA

夜盲症、眼球乾燥、皮膚乾燥、角化

ビタミンD

くる病、骨軟化症

ビタミンE

溶血性貧血、浮腫・脱毛(未熟児)

ビタミンK

出血傾向、メレナ(血便)

 

 

ビタミン名

過剰症

脂溶性

ビタミンA

無気力、食欲不振、脱毛、肝脾腫大、四肢長管骨の有痛性腫脹

ビタミンD

高カルシウム血症、腎障害、石灰沈着

ビタミンK

新生児における溶血性貧血、核黄疸

 

 

 

 

章 整形外科疾患

B.関節疾患

a.関節炎

[概要]    関節に炎症が生じた病態をいう

[症状]    1)腫脹、2)関節痛、3)局所熱感、4)運動機能障害など

 

c.肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)

[概要]    50代を中心として40代後半から60代前半にかけて発来する肩関節の痛みと関節拘縮をおもな兆候とする症候群

[疫学]    男女差はなく、50歳代に多い。ついで60歳代、40歳代と続く

[病因]    原因不明であるが、五十肩では肩関節周囲軟部組織の加齢による退行変性を基盤に炎症性病変を生じることによる

[症状]    1)肩関節周囲の疼痛

            (1)運動時痛が主体であるが、寒冷によって増悪して夜間自発痛となる傾向がある

            (2)痛みは肩周囲のみならず上腕や肘まで放散することがある.

            (3)肩の局所の熱感や発赤、腫張、激しい疼痛時には石灰沈着性臆板炎を疑う

        2)運動制限

            (1)比較的早期の段階においても拘縮を認める

            (2)拘縮がない場合には、腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱障害を疑う

[所見]    1)関節の運動制限が結帯動作(肩関節の外転と内旋運動の組み合わせや、結髪動作(肩関節の外転と外旋運動)で著しい

        2)有痛弧徴候(painfularcsign)が陽性の場合には腱板断裂が疑われる

[治療]    1)保存的治療法(薬物療法、リハビリテーション、誠灸、マッサージ)

        2)手術療法

d.変形性関節症*6*10*14

[概要]    関節の退行変性*14(老化現象)によって関節構造の摩耗と増殖が混在して同時に起こり、関節の形態が変化する非炎症性の進行性疾患である

[疫学]    1)X線学的、病理形態学的にみると成人の半分以上*6にいずれかの関節に変形性関節症の所見がある

        2)加重関節に好発する*14(股関節、膝関節*6、足関節)

        3)変形性膝関節症では、40歳以上の太った女性に多くみられる

[病因]    1)一次性変形性関節症(原因が明らかでないもの)

            (1)中年以降にみられ、老化現象に加え、力学的ストレスが加わって発症する

            (2)一次性は膝関節に多い

        2)二次性変形性関節症(何らかの疾患に続発するもの)

            (1)若年者にもみられ、関節の外傷、形態異常(先天性股関節脱臼*10)、関節疾患(ペルテス病*10、関節リウマチ)、全身疾患(血友病*10)など明らかな原因を有するものに続発する

            (2)二次性は股関節に多い

[症状]    1)動作開始時痛*6*14安静時痛はみられない*4

        2)関節強直がみられることはない*6*14

 

*.ヘバーデン結節*8*16・ブシャール結節

[概要]    1)へバーデン(Heberden)結節:遠位指節間関節*8に生ずる変形性関節症*16

        2)ブシャール(Bouchard)結節:近位指節間関節に生ずる変形性関節症

[疫学]    1)40歳以上の女性に多く*16、性差は1:10程度

        2)ブシヤール結節はヘパーデン結節の20%に合併するといわれている.

[症状]    両手の複数関節部に徐々に出現

        1)初期には軽度の熱感と発赤*16

        2)軽度の疼痛、こわばり感

        3)関節部背面に骨結節がみられ、軽度屈曲位で拘縮を起こす

 

C.骨代謝性疾患・骨腫瘍

a.骨粗しよう症*3*4*6

[概要]    骨粗しょう症とは骨量(骨の絶対量の減少*4*6と骨微細構造の変化のために、骨がもろくなって骨折しやすくなった病態をいう。骨の化学的成分は正常である*6

[分類]

原発性

閉経後骨粗鬆症(エストロゲン分泌低下による破骨細胞抑制低下による)

老人性骨粗鬆症

続発性

疾患などから続発するもの(糖質コルチコイド、上皮小体機能亢進、甲状腺機能亢進*6、男子性腺機能不全、長期臥床など)

 

 

高回転型

骨吸収が過剰、骨形成は正常のため、骨量が減少したもの→閉経後*6、内分泌性、栄養性(ビタミンD過剰症)

低回転型

骨吸収が正常以下となるが、骨形成がさらに低下するため、骨量が減少→老人性

 

[疫学]    50歳以上の全女性の約1/4が、また80歳前後では約半数が骨粗鬆症で、閉経後の女性に多い*3

[症状]    1)易骨折

            (1)構骨遠位端骨折(手首の骨折:コーレス骨折、スミス骨折、バートン骨折)

            (2)上腕骨近位端骨折(肩の骨折)

            (3)脊椎(圧迫)骨折(腰椎と胸椎の移行部、腰椎、胸椎)

            (4)大腿骨頸部骨折

        2)変形(骨折により、脊柱では円背や亀背などで後弯姿勢となる*4

        3)疼痛(腰背部痛*3

        4)その他(脊椎の後弯変形による内臓を圧迫による)

            肺の低換気や肺炎、逆流性食道炎、便秘、鼓腸、食欲不振、嘔吐、亜イレウス状態

[検査]    1)X線検査:骨梁減少*3骨皮質薄化*4

        2)血液検査:血清カルシウムやリンは正常*4

[治療]    脊椎圧迫骨折では、保存療法を主体とし、手術療法は行わない*3

 

b.くる病・骨軟化症

[概要]    1)骨基質の石灰化が障害されて、石灰化不十分な類骨が増加した状態を骨軟化症という

        2)同じ病態で成長中の骨端線閉鎖前の変化をくる病という

[疫学]    多くは2歳までの乳幼児に発症する

[病因]    1)わが国では、ビタミンD欠乏性くる病はまれ

        2)アトピー性皮膚炎に対する誤った極度の食事制限、離乳の失敗や、未熟児、肝胆道系疾患、吸収不全など

[症状]    1)全身状態:不機嫌、不安、不眠、発汗、蒼白な皮膚、肝臓や脾臓の腫大、筋弛緩、疲れやすい

        2)小児:低身長、下肢変形

        3)年長児:腰背部痛や下肢痛、筋力低下、筋緊張低下、歩行障害(アヒル様歩行)

        4)重症:脊柱後側弯、肋骨念珠(肋軟骨移行部の突出;ロザリオ胸)、ハリソン溝(横隔膜付着部の陥凹)などの胸郭変形、四肢の変形(0脚、X脚)、骨折、大泉門の閉鎖遅延、頭蓋骨の軟化

 

(2)骨肉腫*10*15

[概要]    骨に原発する悪性腫瘍で最も頻度が高い疾患*15(42%)である

[疫学]    1)好発年齢は10歳代、ことに15〜19歳あたりに多い*10*15

        2)男女差は3:2で男性に多い.

        3)好発部位:大腿骨遠位と脛骨近位の骨幹端(膝周囲*15)>上腕骨の骨幹端

[症状]    1)疼痛*15(運動痛が初発症状、自発痛)

        2)局所の熱感、発赤、腫脹*15

        3)関節運動の障害、跛行など

        4)局所に骨と癒着した腫瘍を触知

[検査]    1)単純X線撮影:骨皮質の虫食い像(蚕蝕像)やコッドマン三角といわれる骨皮質の醜状ないし三角形の盛り上がり、太陽の旭光のような針状の新生骨棘を認める

        2)血液検査:アルカリホスファターゼ(ALP)高値

[予後]    以前は予後のもっとも不良な疾患であったが、近年では強力な補助化学療法の導入により、次第に生存率の向上がみられるにいたっている すなわち1970年初頭までは10〜15%だった5年生存率が最近では60〜70%に向上してきている

 

a.筋肉炎・筋膜炎

[概要]    筋肉や筋膜に炎症が生じた病態をいう

[病因]    1)反復運動や外力などによる機械的ないし物理的刺激

        2)有害化学物質

        3)細菌感染などの生物的侵襲

        4)リウマチ類似疾患による自己免疫的機序

[症状]    1)疼痛、2)発熱、3)発赤、4)腫脹

 

b.腱鞘炎

[概要]    腱鞘の内面を覆う滑膜の炎症や、靭帯性腱鞘に慢性肥厚性の炎症を起こした病態

[病因]    1)反復運動による物理的、機械的な刺激

        2)細菌感染

        3)リウマチによる自己免疫疾患的機序

[好発]    1)物理的な刺激

            (1)ドケルバン病:手関節橈側部で短母指伸筋と母指外転筋の腫鞘

            (2)ばね指:母指そのほかの指屈筋腫の臆鞘炎

        2)細菌感染

            (1)化膿菌:手の屈筋腱の腱鞘

            (2)結核性:前腕や手の屈筋腱の腱鞘

        3)リウマチ性関節炎

            手関節の屈・伸筋腱

[症状]    1)疼痛、2)腫脹、3)熱感、4)機能障害、5)細菌感染では発赤と膿瘍の形成

 

1)ばね指

[概要]    指の屈曲や伸展に際し、指が屈曲位のまま伸びなくなったり(ロッキング現象)、力を入れると急に指が伸びたり曲がったりする状態

[疫学]    1)中年以降の女性と1〜2歳の幼少児に好発する

        2)成人:右親指に好発する。母指>中指>環指>示指>小指

        3)幼少児:母指に好発

[病因]    機械的刺激等で腱の一部が肥厚し、腱鞘部でひっかかるために生じる

[症状]    1)弾発現象を伴う運動障害

        2)手掌側MP関節部に圧痛のある小結節を触知

 

(2)ドケルバン(deQuervain)病

[概要]    手関節橈側の橈骨茎状突起部における短母指伸筋と長母指外転筋の狭窄性腱鞘炎

[疫学]    手の使用頻度の高い中年以降の女性や妊娠後期および出産直後の女性などに多発する

[症状]    1)母指使用時の手関節橈側の痛み

        2)橈骨茎状突起部の腫脹、圧痛

[検査]    フィンケルスタイン(Finkelstein)テスト20

 

E.形態異常

a.先天性股関節脱臼*2*7*9*10*16

[概要]    外傷や感染とは関係なく、先天的に大腿骨頭が寛骨臼から脱臼している状態

[疫学]    1)発生頻度:発生率は予防の啓蒙によって1975年噴からそれ以前の1%程度だったものが0.1%程度、すなわち約1/10に減少した.

        2)性差は男:女=1:5〜9で女児に多い*2*9

        3)人種差21:北イタリア地方、スカンジナビア半島ラップランド地方、アメリカ先住民、日本人に多く、中国人やイヌイットには少ない

        4)最近では12〜4月頃の出生児に多い(理由は不明)

        5)分娩時の異常胎位(骨盤位、殿位分娩など)に発生率が高い.

[病因]    原因は不明。以下の3要素が関わり合って発症すると考えられている

        1)遺伝的素因(股関節が弛緩しやすいとか、骨格の形態異常)

        2)ホルモンの影響妊娠末期に関節弛緩ホルモンが母体から分泌される)

        3)機械的作用(出生前後に下肢が伸展位となり自由な運動が妨げられる)

[症状]    1)新生児期

            (1)下肢の位置の異常(股位異常):仰臥位で股関節が内転内旋位

            (2)股関節屈曲外転時にクリック音*16オルトラニー徴候*9、バーローテスト)

        2)乳児期

            (1)下肢短縮*16(アリス徴候):仰臥位で立て膝位をとらせると患側の膝の高さが低い

            (2)開排制限*2

            (3)大腿皮膚溝の左右非対称*2*9*16:大腿内側部の皮膚溝が患側で、数が多く深く長い

            (4)寛骨臼の空虚:大腿三角(スカルパ三角)といわれる大腿鼠径部にあるべき大腿骨頭を触れない.

            (5)処女歩行遅延*7:10〜12カ月でも歩き始めない

            (6)トレンデレンブルク徴候(弾性墜落跛行*10:歩行にさいして上半身がぎこちなく揺れる

            (7)腰椎前彎増強*9*16

 

c.側弯症*11

[概要]    1)脊柱が前額面本上で異常に左右に轡曲している状態で、脊柱のねじれも伴う

        2)一般にはコブ角が10度未満は正常範囲内、10〜19度は要定期的観察、20度以上は何らかの治療を要するといわれている.

[疫学]    1)一般に学童健診で1%程度の発見率となっている

        2)男女比は1:2〜3で女性に多い

[病因]    原因不明である特発性が79%、先天性が10%、脳性麻痺やポリオ、脊髄空洞症などの神経原性が2%、神経線維腫症が2%、マルファン症候群が1%などとなっている

[分類]    1)機能性側弯:脊柱に変形がなく自分で矯正できるもの

            (1)小児側弯(姿勢不良による)

            (2)代償性側弯(脚長差を解消するための)

            (3)疼痛性側弯(坐骨神経痛などの痛みのため)

            (4)ヒステリー性側弯(心因性の)

            (5)炎症性側弯(筋炎や筋膜炎など)

        2)構築性側弯:脊柱に変形や捻れがあって自分で矯正できない真の側弯症

            (1)特発性側弯:原因がはっきりしないもの

             1.乳児期側弯(男児に多く3歳までに発症し、左カーブが多い)

             2.学童期側弯(4〜9歳までに発症し、性差なく右カーブが多い)

             3.思春期側弯(10歳〜成長期終了までに発症し、ほとんど女児で右カーブが多い)

        (2)症候性側弯:はっきりした原疾患があってそれに続発するもの

             1.神経性側弯(脳性麻痺やポリオ、脊髄空洞症などによるもの)

             2.筋性側弯(筋ジストロフィーなど筋肉疾患によるもの)

             3.先天性側弯(楔状椎、半椎など椎体の奇形によるもの)

             4.神経線維腫症(フォン・レックリングハウゼン病によるもの)

             5.間葉性側弯(マルファン症候群などによるもの)

             6.外傷性側弯(脊椎の脱臼・骨折などによるもの)

             7.リウマチ性側弯(若年性関節リウマチなどによるもの)

[症状]    1)脊柱の側弯(脊柱の捻転が加わると前屈時に凸側の肋骨が隆起する*11

        2)しばしば背部痛、腰痛

        3)若いときは無症状であっても、変形が80°以上になると胸腔体積は減少し、やがて心肺機能障害を呈する

[治療]    1)コブ角(図8-12)が25°以下では経過観察と体操療法、25°をこえるようだと唯一効果が証明されている保存的治療の装具による矯正を行う.コブ角が45〜50°をこえると手術を考えるべきである.手術は変形矯正と固定である

        2)装具療法は成長期までが有効でそれ以後は無効となる

 

F.脊椎疾患

a.椎間板ヘルニア*2*3*5*8*11*12*13

[概要]    椎間板が加齢による変性のために、椎間板線維輸に亀裂が生じ、髄核が膨隆・脱出して神経根や脊髄を圧迫している*3状態である。

[疫学]    1)20代から40代の男性に好発*12

        2)好発部位はL4/5(第4腰椎と第5腰椎間)、L5/S1(第5腰椎と第1仙椎間)で、この2椎間で80%を占める*12

[病因]    椎間板の退行変性に繰り返し捻転外力が加わり、線維輪の亀裂を起こし、髄核が後側方に脱出する*13ことが多い

[症状]    1)腰痛と下肢痛(坐骨神経痛*12*13)が2大症状で、ぎっくり腰で始まることも多い*13

        2)下肢筋力の低下やしびれ(知覚障害*12)は、痛みよりやや遅れて出現する

        3)まれに急性の両下肢筋力の低下、感覚障害、膀胱直腸障害が生じる

[検査]    1)L3/4間のヘルニア(L4神経根が圧迫)

            (1)膝蓋腱反射の減弱、消失*5

            (2)下腿内側の知覚鈍麻

            (3)膝関節伸展力低下(大腿四頭筋筋力低下*3萎縮*8

        2)L4/5間のヘルニア(L5神経根が圧迫)

            (1)膝蓋腱反射は正常*8

            (2)下腿外側、足背部の知覚鈍麻

            (3)足関節、母趾の背屈力の低下

            (4)ラセーグ徴候陽性*5*8*11

        3)L5/S1間のヘルニア(S1神経根が圧迫)

            (1)アキレス腱反射の減弱、消失*2*5

            (2)下腿後面*8、足部外側の知覚鈍麻

            (3)足関節底屈力低下(腓腹筋筋力低下*2)、母趾底屈力低下*5

            (4)ラセーグ徴候陽性*2*11

        4)X線検査:椎間腔の狭小化*3

[治療]    急速な下肢の麻痺や膀胱直腸障害(排尿と排便の失禁や停止)が生じたものや再発を繰り返すもの*3には手術療法を考慮するが、原則は保存的治療を優先する

[予後]    近年CTやMRIでの観察で脱出ヘルニアの自然消退する例が観察されており、自然治癒ということも期待される

 

b.後縦靭帯骨化症*2

[概要]    椎体の後壁にあってこれを縦方向に連結する後縦靭帯が、一部または全体的に骨化変性を起こし、その結果、脊髄の圧迫障害を発現した場合を後縦靭帯骨化症(OPLL)という

[疫学]    1)わが国を中心とした東南アジアに多く、白人には少ない

        2)発生年齢は50歳以上の高齢者の男性に多い

        3)頚椎部の発生は男子に、胸椎部の発生は女子に多い

        4)好発部位は、頸椎では運動性の大きいC3からC6間、特にC5に多く*2、胸椎ではT4〜T7に多く、腰椎ではL1、L2に多い

        5)本症ではほかの脊柱靭帯(黄色靭帯、前縦靭帯など)の骨化を合併する頻度が高い

        6)家族集積性が高く、耐糖能異常やカルシウム代謝異常などとの関連がある

[病因]    原因不明

[症状]    脊髄の圧迫性障害(脊柱管狭窄率が40%をこすと脊髄障害を生じる)

        1)頚髄症では痙性四肢麻痺

        2)胸髄症では下肢のしびれと脱力が初発症状

 

c.脊椎分離症*16*17・脊椎すべり症

[概要]    1)脊椎分離症:上関節突起と下関節突起間の椎弓関節間部で骨の連続を欠く状態が生じたもの*17で第5腰椎(下位腰椎に好発する*17

        2)脊椎すべり症:上位椎体が下位椎体に対して前方にすべって移動している状態の総称であるが、しばしば脊椎分離症に併発し、この場合、脊椎分離すべり症という

[疫学]    1)脊椎分離症の発生頻度は全人口の5〜7%で、さらにその1O〜20%が分離すべり症となる

        2)スポーツ選手での発生頻度は通常の2〜3倍にのぼる*16*17

        3)脊椎すべり症の発生頻度は20〜30代では男性に多く、40〜50代では女性に多くなる

        4)脊椎すべり症は第5腰椎と仙骨の間(L5/S1)に好発する

[病因]    1)発育期の過度の運動による疲労骨折とその遷延治癒

        2)外傷性

[症状]    1)脊椎分離症

            (1)腰部の鈍痛や疲労感

            (2)坐骨神経痛などの神経根圧迫症状はみられない*17

            (3)圧痛(罹患腰椎棘突起)

        2)脊椎すべり症

            (1)坐骨神経症状

            (2)すべり部分の脊柱に陥凹

        (3)腰椎前弯増大を起こし、臀部が後方に出っ張る

[診断]    X線検査:45°斜位像では脊椎分離部を含む周辺像はテリア犬のようなイメージを形作るが、脊椎分離症ではテリアの首輪が描出される

 

d.頚部変形性脊椎症

[概要]    頚椎と頚部椎間板の退行変性に基づく椎体周辺の骨増殖と椎間腔の狭小化を生じ、そのために頚神経や脊髄が圧迫されて症状を呈する疾患である

[疫学]    1)好発年齢は50〜60歳代

        2)男女差は2:1

        3)第5〜第6頚椎部に好発

[症状]    1)初期症状

            (1)肩こり、背部痛、項部痛、頚部痛

            (2)緊張型頭痛

            (3)肩から上肢にかけての放散痛

        2)神経根症状

            (1)手指のしびれ感や握力の低下

            (2)母指球や小指球、虫様筋の萎縮

            (3)巧融運動

        3)脊髄症状

            (1)下肢の痙性麻痺、歩行障害

            (2)膀胱直腸障害

[検査]    1)スパーリングテストやジャクソンテストが陽性

        2)上下肢の深部反射の亢進や低下

        3)傷害された神経根に一致した知覚低下、筋萎縮

 

e.腰部変形性脊椎症

[概要]    腰部椎間板の退行変性に基づく椎体周辺の骨増殖と変形、椎間腔の狭小化を生じたものであり、そのために神経が圧迫され疼痛や運動制限、姿勢不良をきたす疾患である

[疫学]    中年から老人層にかけて好発する

[症状]    疼痛(腰痛、腰背部痛、坐骨神経痛など)

        疼痛は激痛ではないが、体動時に増強し安静で改善する。また、同一姿勢から次の運動に移るときに強くなる

 

f.頚部脊柱管狭窄症

[概要]    頚部の脊柱管が狭い状態に発育していった発育性のものと、頚椎の不安定性のために上位頚椎が下位頚椎に対して後方にすべることによる動的な脊柱管の狭窄とがある

[疫学]    40代以降に多く、性別では男性に多い(約2:1)

[症状]    頚部脊髄症状

        1)手指のしびれで発症するものが約80%で、ほとんどが両側性である.手指がもつれ、細かい指先でする仕事に支障をきたす

        2)歩行障害、下肢・体幹のしびれ、尿の出始めの遅れるような排尿障害

 

g.腰部脊柱管狭窄症*4*14

[概要]    1)腰部の脊柱管の横断面積が狭くなり、馬尾神経あるいは神経根圧迫の症状をきたす疾患の総称

        2)先天性に狭窄を起こしやすい形態(横断面で三角型、三つ葉型の脊柱管)に、後天性の変形性脊椎症をはじめ、脊椎すべり症、腰椎椎間板ヘルニア、さらには外傷、手術などが加わることによって起こる.

[疫学]    1)40歳以上の男性に多発する

        2)性差は4:1程度である

        3)両側性で多椎間のことが多い

[病因]    脊柱管の形態を決める骨性の因子以外にも脊柱管の横断面積を狭くする因子として、椎間板の関与(ヘルニア、高さの減少)、黄色靭帯の関与(肥厚と短縮)があり、さらに疼痛症状の発現に関わる因子として神経性因子と血流因子が関与しているものと考えられる

[症状]    安静時にはみられず*14、歩行時や立位時に発現する

        1)腰痛

        2)下肢痛、知覚異常(下肢のしびれ感、冷感、違和感など)

            (1)SI領域に多い

            (2)2〜3の複数神経根にかけて下肢両側性に出現*14する

        3)間欠性跛行*4*14(50〜60%)

        腰椎屈曲位でのみ症状軽減*14

        4)下肢伸展挙上(SLR)テストは陰性のことが多い

        5)膝蓋腱反射、アキレス腱反射は消失(80%以上)

        6)馬尾神経症状

            両下肢・殿部・会陰部のしびれ感・灼熱感、下肢の筋力低下・脱力感、残尿感や尿意頻数・尿失禁、便秘、勃起障害(30%)

[予後]    神経根症状は自然寛解傾向があるが、馬尾症状にはない

 

G.脊髄損傷

a.脊髄損傷*1*5*11*15*16

[疫学]    1)男女比はおおむね4:1で男性に多い

        2)平均年齢は48歳である

        3)受傷原因は交通事故関連が最多で、次いで転落事故。この2つで約70%を占める.

[病因]    外力によって脊椎の脱臼骨折*11が起こり、それに伴って脊髄が損傷されるものである

[症状]    1)損傷発生直後は脊髄ショックに陥り、損傷レベルから下位の脊髄は自律性を失う.すなわち運動、知覚、深部臆反射等すべてが消失した弛緩性麻痺*1となり、同時に自律神経機能も低下する.脊髄ショックからはおおむね24時間で回復してくる

        2)回復期を過ぎると損傷脊髄以下の反射機能は回復して痙性麻痺*1となり、深部反射は亢進する

        3)麻痺パターン

        脊髄損傷の場合、原則として頚髄の損傷は四肢麻痺となり、胸髄以下の損傷では対麻痺となる

        4)呼吸障害*16

            (1)第3頚髄以上の上位頚髄損傷*15の完全麻痺では肋間筋や腹筋のみならず横隔膜神経も麻痺し、自発呼吸が消失*1*15する

            (2)それより下位の頚髄損傷でも肋間筋や腹筋の麻痺のため、自発呼吸が十分でなくなる

        5)循環障害(血圧変動*16

            第5胸髄より頭側の脊髄損傷では副交感神経優位の状態となり、徐脈と末梢血管拡張による低血圧が生じる

        6)排尿障害*15

           初期の脊髄ショックの時期には弛緩性麻療を起こし、尿閉に陥るので導尿*5を要する。回復期になると、頚髄・胸髄障害時には反射性膀胱22が、腰髄以下の障害の場合には自律性膀胱23がみられる

        7)消化器障害

            麻痺性イレウス*15消化性潰瘍*16、胃拡張、便秘・宿便などを起こす

        8)その他の症状

            褥瘡(体位変換を行う*5)、過高熱(副腎皮質ステロイド投与*5)・低体温などの体温調節障害*15、異所性骨化症、拘縮、脊髄空洞症など

[治療]    初期全身管理

            呼吸管理(人工呼吸)、循環器管理(昇圧剤)、消化器管理(消化性潰瘍予防)、尿路管理(間欠導尿法*16

 

H.外傷

a.骨折*3*4*8*12*17

[分類]    1)原因別分類

            (1)外傷性骨折:正常な骨にその強度をこえる直達もしくは介達外力が加わって起こる骨折

            (2)病的骨折:骨に何らかの基礎疾患があり、わずかの外力により骨折に至るものをいう(骨腫瘍や骨髄炎、骨軟化症、くる病、骨粗しよう症を基盤にした骨折)

            (3)疲労骨折:骨の同一部位に通常では骨折を起こさない程度の軽度の外力が繰り返し加わり、その結果生じる骨折(中足骨の行軍骨折、ランナーにおける脛骨・腓骨の走者骨折など)

        2)程度による分類

            (1)完全骨折:骨の連続性が完全に絶たれたもの

            (2)不完全骨折:骨梁の連続性は絶たれているが、骨全体の連続性は保たれているもの    

        1.亀裂骨折:亀裂、いわゆる「ひび」が入ったもの

        2.若木骨折:小児の場合骨質が柔らかいので、若木を折った場合のように不完全に折れる

        3.竹節骨折:長管骨が長軸方向に押しつぶされてあたかも竹の節のように盛りあがって折れるもの

        3)骨折線の走行による分類

            (1)横骨折:長管骨をほぼ真横に横切る骨折

            (2)斜骨折:長管骨を斜めに横切る骨折

            (3)らせん骨折:長管骨をらせん階段状に横切る骨折.発生機序が捻転による

            (4)粉砕骨折*4:骨折線が単一でなく第三骨片を生ずるような粉砕を伴う骨折

        4)被覆軟部組織の状況による分類

            (1)皮下骨折(単純骨折):骨折した骨組織が外界にさらされないもの

            (2)開放骨折(複雑骨折*4):骨折部位における皮膚が骨折により損傷を受け、骨折部が外界と交通するもの

[病因]    1)高齢者にみられやすい骨折

            (1)大腿骨頚部(内側)骨折*12

             1.骨粗しょう症を基盤にもつ70〜80歳代の老人に多く*3、男性より女性に多い

             2.下肢は外旋位をとる*3

             3.頸部から骨頭への栄養血管の連絡が絶たれる*3

             4.骨頭部の骨新生が低下するので治りにくい*3

             5.生命予後も決して良好ではなく、本骨折患者の死亡率は、受傷後1年以内は対照群の約3倍と高率(10〜20%)である

         (2)上腕骨近位部骨折

             大腿骨頭部骨折とならび高齢者では非常に多い骨折である.大腿骨頚部骨折の7割程度の頻度で起こる.老年期では骨組しよう症を基盤に発生するので受傷機転は平地での転倒、ドアにぶつかるなど軽微な外力が多い

        (3)橈骨遠位端骨折*12(コーレス骨折)

            転倒時に手をついたさいに生ずる橈骨遠位端の骨折をいい、骨折のなかでもっとも頻度の高い骨折のひとつ.ことに骨粗しょう症をもつ老人が転倒した場合にしばしば起こす.遠位端は背側に転位する.しばしば尺骨茎状突起の骨折や手根骨の骨折を伴う。また、ときに正中神経損傷を伴うので注意が必要である

        (4)椎骨圧迫骨折*12

            骨粗鬆症を基盤に持つ老人に好発し、転倒時などに尻もちをついて受傷し、第12胸椎椎体部に好発する

        2)小児にみられやすい骨折

            (1)上腕骨顆上骨折*12*17

             1. 1.5〜10歳児に好発する

             2.伸展骨折(肘を伸ばして手をついて受傷*8)と屈曲骨折(肘を曲げた状態で手をついて受傷)があり、伸展骨折が大部分を占める

             3.合併症として、正中神経(多い)、橈骨神経の損傷がみられる*8

             4.上腕末端部の強い自発痛*8、変形(肘頭突出)が発現

             5.フォルクマン拘縮が生じるので予防が必要*8

         (2)鎖骨骨折*17

            小児期に多発する骨折である.交通外傷、スポーツ外傷の頻度が高く男性に多い。発生頻度は鎖骨中1/3の骨折がもっとも多く、次に鎖骨遠位端、鎖骨近位端の順である

[症状]    1)疼痛

            骨折部の自発痛、局所圧痛(マルゲーヌ痛)、軸圧痛など

        2)機能障害

            骨折によって骨の本来果たしていた、体を支えたり、関節をスムーズに動かしたりする機能が失われる

        3)変形

            骨折の結果、骨の正常なアラインメントが破綻して変形や転位を認める.また内出血によっても腫脹を起こし、変形に寄与する

        4)異常可動性

            骨折によって動くはずのない部位で異常な可動性を呈する

        5)軋轢音

            骨折片や断端が擦れて異常なゴリゴリいうような音を触知したり聴取したりする

[合併]    1)皮膚損傷、感染、神経損傷、血管損傷、脂肪塞栓、内臓損傷などがあるが、ことに感染症としての骨髄炎はやっかいな問題を残す

        2)後遺症としては変形治癒、四肢の短縮、骨化性筋炎、偽関節、阻血性拘縮、ズデック骨萎縮、無腐性骨壊死、関節症などがあげられる

[予後]    骨端ブロック骨折は関節内骨折のため、関節の機能障害を起こしやすい*4

[治療]    1)副子固定は、骨折部のみではなく関節部を越えて固定する*4

        2)牽引法には、直達牽引法(骨に鋼線を刺入して牽引)*4と介達牽引(絆創膏で皮膚を介して牽引する)がある

 

b.脱臼*2*6*11

[概要]    1)関節面が正常な可動域をこえて接触を失った状態をいう

        2)一部の関節面がなお接触を保っている場合を亜脱臼と呼ぶ

[疫学]    肩関節脱臼が四肢の脱臼の中で最も多*11(50%)、なかでも前方脱臼が90%

[分類]    1)外傷性脱臼:外傷により一方の関節端が関節包を破り*6関節包外に脱出したもの

        2)病的脱臼:外傷性以外の原因による脱臼で関節包内脱臼である

        3)習慣性脱臼*6:脱臼を繰り返すもの

        4)陳旧性脱臼*6:脱臼を放置し、関節端が関節包から脱出状態になったままの状態

[症状]    1)異常肢位

        2)疼痛*2

        3)変形*2

        4)弾発性(ばね様)固定*2*6(他動的に関節を動かすとばね様抵抗で元の肢位に戻る)

[治療]    外傷性脱臼は受傷後なるべく早期に整復する*11ことが望まれ、整復後は一定期間固定し局所の安定をはかる*11

[予後]    肘関節脱臼では血管損傷はほとんどみられない*11

 

d.スポーツ外傷・傷害

[概要]    スポーツによって起こる傷害を総称して「スポーツ傷害」と呼ぶ

[分類]    1)スポーツ外傷:急に大きな力が作用して生じる

        2)スポーツ障害:繰り返し同じ動作を行うことによって生じる

(1)上腕骨外側上顆炎*7

[概要]    テニスやゴルフをする人等にしばしばみられる上腕骨外側上頼または内側上顆周辺に痛みが発現する。テニス肘*7と呼ばれる

[疫学]    1)テニス肘の外側型と内側型の比率は7:1以上で外側型が多い

        2)テニスでは中年の初心者に多く発症するが、テニスとは関係なく、30〜50歳の主婦にもしばしば起こる

[病因]    1)テニス中、とくにパックストロークで衝撃力が加わると、上腕骨外側上頼に疼痛を生ずる。この部の出血、部分剥離、小断裂などによる炎症が病態と考えられる。バックハンドテニス肘と呼ばれる。

        2)トッププレーヤーでは強力なサーブ、トップスピンなど手関節の屈曲や回内動作により、上腕骨内側上頼炎を生じる。この内側型をフォアハンドテニス肘という

        3)ゴルフでは、スイング中のダフリ、ゴルフボールを打った後のターフをとるダウンブロースイングなどによる衝撃が、利き腕側の肘関節内側に伝わり、囲内屈筋群の筋・筋膜損傷を起こす

[症状]    上腕骨外側上頼炎の症状

        1)上腕骨外側上頼部の圧痛

        2)手関節の背屈と前腕の回外を伴う運動時痛(タオルを絞る、雨戸を開け閉めする、ドアノブを回す、フライパンを持つなど)

        3)肘関節の運動そのものには制限や疼痛はない

[検査]    1)椅子の持ち上げテスト、2)トムセンテスト、3)中指伸展テストがある

 

(2)野球肘

[概要]    1)野球によって生じる肘関節の障害の総称

        2)少年期のものは離断性骨軟骨炎(成長期の骨軟骨片が剥離する)であり、成人期のものは尺側側副靭帯損傷をはじめとする筋炎、腫炎、関節包炎など肘関節周囲の軟部組織の炎症が主体であって病態のおもむきが異なる

[病因]    投球動作時には肘関節全体に外反ストレスが生じ、投球後のフォロースルーにおいて肘頭部が肘頭窩に強くぶつかり発症する

[症状]    1)疼痛:肘関節の自発痛・運動痛、前腕への放散痛

        2)肘関節の可動域制限や動揺性

        3)嵌頓症状:離断した骨軟骨片の嵌頓による激痛と可動域の制限

        4)尺骨神経麻痺(進行時)

 

(3)野球肩

[概要]    野球肩とは、繰り返す投球動作による使い過ぎのために肩関節周囲の組織に生じるさまざまな障害の総称

[症状]    1)肩関節部痛(投球時)

        2)棘上筋や棘下筋の筋萎縮

        3)二頭筋長頭筋臆や肩峰下滑液包などの圧痛

        4)肩関節可動域の低下、肩関節の不安定性

 

(4)ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)

[概要]    繰り返し行われるジャンプ動作によって生じる膝関節伸展に関与する筋肉と靭帯の使い過ぎによる障害である

[疫学]    1)バレーボール、バスケットボールがもっとも多く、そのほかに陸上競技やサッカー、野球などでも起こる

        2)15〜18歳に起こりやすい

[病因]    1)膝伸展機構として膝蓋骨と腔骨粗面をつなぐ膝蓋靭帯に繰り返しの過度のストレスが加わることにより生じる

        2)ジャンパー膝を起こす選手はしばしば長身で、好発年齢の高校生の頃に急速に身長が伸びた者がなりやすい.急な大腿骨の成長に大腿四頭筋やハムストリング筋の成長が追いつかないことも成因のひとつである

[症状]    1)膝蓋骨の下極部・上極部に自発痛、圧痛、腫脹

        2)初期のジャンパー膝では運動の開始時にみられ、ウォーミングアップによって和らいでくる特徴があるが、スポーツ終了後にまた痛みが再発する

[診断]    1)腹臥位で膝を十分屈曲させてみると、大腿四頭筋の拘縮のためお尻にくっつかない症例が多い

        2)また、ハムストリング筋の拘縮のために膝関節が完全に伸展することができないこともある

 

I.その他の整形外科疾患

a.胸郭出口症候群*7

[概要]    胸郭出口とは第1肋骨、鎖骨、前斜角筋、中斜角筋などによって構成される胸郭の上端から頚の下部の構造のことで、この部を通る鎖骨下動脈や静脈、それに腕神経叢の神経が肋骨、鎖骨、前・中斜角筋、それにときには頚肋などによって圧迫されることがあり、そのために引き起こされる一連の症候群を胸郭出口症候群という

[分類]    1)頚肋症候群、2)斜角筋症候群、3)肋鎖症候群、4)過外転症候群

[疫学]    1)15〜50歳の各年齢層にみられるが、20代がもっとも多い

        2)なで肩の体型の人に起こりやすい傾向があり、一般に女性のほうに多い

        3)発現に左右差はない。両側性より左右どちらか片側性のことが多い

[病因]    1)頚肋症候群:頸肋の存在によって斜角筋三角の底部が狭められて神経・血管の圧迫を生じる

        2)斜角筋症候群:前斜角筋もしくは中斜角筋の攣縮によって神経・血管の圧迫を生じる

        3)肋鎖症候群:第1肋骨と鎖骨の間が狭く、そのために神経・血管の圧迫を生じる

        4)過外転症候群:上肢を過外転することによって烏口突起のところで神経・血管が過伸展され小胸筋によって圧迫を生じる

[検査]    1)頚肋症候群:アドソンテスト、アレンテスト、モーレイテスト

        2)斜角筋症候群:1)と同様

        3)肋鎖症候群:エデンテスト

        4)過外転症候群:ライトテスト*7

[症状]    1)上肢のしびれ感、放散痛、脱力感

        2)ときにチアノーゼや筋萎縮

 

d.手根管症候群*7*10*12*15

[概要]    手根管が炎症、腫瘤などにより狭くなり、手根管を通る正中神経が圧迫されて生じる

[疫学]    男女比は1:6〜7で女性に多い

[病因]    1)正中神経が手関節屈筋支帯の下で圧迫や絞扼を受けることにより発症

        2)使い過ぎ、肥満、妊娠*12糖尿病*12甲状腺機能低下症*12関節リウマチ*12*15や長期血液透析患者にみられる

[症状]    正中神経の障害*7による症状(正中神経低位麻痺*10がみられる

        1)しびれ感、知覚障害

        2)母指球の脱力、萎縮*10母指対立運動障害*10

[検査]    1)ファーレンテスト陽性24*15

     2)チネル徴候陽性25*15

     3)神経伝達速度は遅延する*15

 

章 循環器疾患

A.心臓疾患

a.心不全

[概要]    1)各種心疾患において心機能が低下し生体組織が必要とする血液を十分拍出できなくなった状態(基礎心疾患の種類に関係なく、共通する症状)

        2)急激に出現し、心拍出量の低下により循環不全をきたした場合を心原性ショックと呼ぶ

[病因]    1)機械的障害    :高血圧、弁膜症

        2)心筋不全:心筋症、心筋炎

        3)拡張不全:心(膜腔)タンポナーデ26

        4)調律異常:細動、頻脈、徐脈

[誘因]    1)感染、2)貧血、3)甲状腺中毒症もしくは妊娠、4)不整脈、6)リウマチ性や他の心筋炎、7)感染性心内膜炎、8)身体負荷、精神的負荷、塩分負荷、水分負荷、9)高血圧症、10)心筋梗塞、11)肺塞栓などがある

[症状]    1)左心不全(肺うっ血が生じる)

            (1)呼吸困難(労作性呼吸困難→発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸)

            (2)咳嗽、血痰、喀血

        2)右心不全(全身のうっ血が生じる)

            (1)肝腫大、浮腫、腹水

            (2)静脈圧上昇(頚静脈怒張など)

            (3)食欲不振、悪心、腹部膨満感(胃・腸管のうっ血による)

            (4)期外収縮

[治療]    塩分摂取制限と水分の過剰摂取禁止

 

1)僧帽弁狭窄症*3*13    

[概要]    僧帽弁口狭窄→左房から左室への拡張期血液流入障害→左房拡大*3→心房細動→塞栓症(脳塞栓)

[病因]    1)リウマチ性(大部分:リウマチ熱後遺症による)、2)その他(先天性)

[症状]    1)初発症状→無症状(長期間)

        2)症状発現時→左心不全症状(肺うっ血による*3

            (1)労作性呼吸困難(進行→発作性夜間呼吸困難、起座呼吸*13)

            (2)咳嗽、喀血、血痰

            (3)塞栓症(心房細動*3が原因となり、心臓内での血栓形成による)

        3)進行時→右心不全症状

            (1)肝腫大、浮腫

            (2)僧帽弁顔貌(頬部の毛細血管の怒張と紅潮)

 

2)僧帽弁閉鎖不全*13    

[概要]    僧帽弁閉鎖不完全→左室から左房への収縮期血流が逆流→左房拡大→心房細動

[病因]    1)リウマチ性(多い)

        2)その他(感染性心内膜炎、外傷、変性)

[症状]    1)動悸、労作時呼吸困難、易疲労性*13←初発症状(休息すると軽快)

        2)左心不全が進行した場合→発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸など

        3)右心不全を起こした場合→肝腫大、浮腫、食欲不振など

 

3)大動脈弁狭窄症*1*17

[概要]    大動脈弁口狭窄→左室からの心拍出量低下*17左室肥大*17)→左心不全症状(肺うっ血*17、肺水腫など)

[病因]    1)リウマチ性

        2)動脈硬化症

[症状]    1)初発症状→無症状(長期間)

        2)症状発現時の3大徴候)

            (1)狭心症27  :症状発現時の初発症状

            (2)失神発作*13 :脳血流量の低下による

            (3)左心不全症状:呼吸困難など

 

4)大動脈弁閉鎖不全

[定義]    大動脈閉鎖不完全→拡張期に弁の隙間から大動脈から左室へ血液逆流→(拡張期血圧低下*13

[病因]    1)リウマチ性

        2)感染性心内膜炎

[症状]    1)初発症状→無症状(長期間)

        2)症状発現時

            (1)動悸        :1回心拍出量の増加による

            (2)左心不全症状    :呼吸困難

            (3)狭心症        :左前胸部の不快感のことが多い

 

d.その他:代表的な先天性心疾患

(1)心室中隔欠損症

[概要]    1)心室中隔に欠損孔があり、その孔を通して左室から右室へ動脈血の一部が流入する疾患であり、先天性心疾患のなかで最も頻度が高い

        2)全収縮期雑音を聴取し、感染性心内膜炎の合併をきたしやすい

        3)自然閉鎖が30〜50%にみられ、大多数は2歳までに閉鎖する

 

(2)心房中隔欠損症

[概要]    1)心房中隔に欠損孔があり、欠損の部位で一次孔欠損と二次孔欠損とに分けられる

        2)心室中隔欠損症に次いで頻度が高い先天性心疾患である

        3)乳幼児期には症状はなく、学童期に発見されることが多く、自然閉鎖はまれである

        4)心房中隔の欠損孔を通して左房から右房へ血液が流入すると、右室で容量負荷が生じ成人期には心不全症状が出現するため、手術を考慮する

 

B.冠状動脈疾患

a.狭心症*1*2*6

[定義]    一過性の心筋虚血による胸痛が生じる

[病因]    1)冠動脈硬化(大部分)、冠動脈の攣縮

        2)貧血(動脈血の酸素運送能力低下)

        3)その他(膠原病、大動脈炎症候群、大動脈弁膜症等による冠血流量減少)

[誘因]    危険因子

        1)加齢、2)高脂血症*6、3)高血圧、4)糖尿病、5.肥満、6)高尿酸血症、7)喫煙、

        8)ストレス、9)性格など

[分類]    1)労作性狭心症*1(労作によって誘発):血管の断面積が75%以上狭窄すると発現

            食事によっても誘発され*6安静によって軽快する*6

        2)安静時狭心症*1(安静時に出現):狭窄が進行し95%以上になると発現

        3)異型狭心症*1:突然冠動脈が攣縮して細くなって狭心症症状をきたすもの

[症状]    左前胸部・胸骨裏面の圧迫感、疼痛

        1)持続時間が短い(通常2〜6分間で30分以上持続することはない)

        2)放散痛(発作の強い場合、左肩〜左上肢に生じることが多い)

        3)ニトログリセリン服用が有効*6(通常2〜3分でおさまる)

[検査]    1)心電図検査

            (1)安静時心電図*2:発作時にST低下、異型の場合にはST上昇

            (2)運動負荷心電図*2:ST低下

        2)冠動脈造影*2:血管狭窄部位の確認

[予後]    1)死亡率は年間2〜7%

        2)安静時狭心症は心筋梗塞に移行することが多い

 

b.心筋梗塞*1*4*5*6*11*17

[概要]    冠動脈閉塞により心筋虚血が一定時間持続し心筋壊死が生じる

[病因]    冠動脈硬化(冠動脈内の脂質性プラークが破裂し、そこに血栓が形成され冠血流が途絶して発症する。短時間で血栓が溶解されれば不安定狭心症となる)

[疫学]    1)近年、日本人の食生活・生活様式の欧米化により発生頻度が増加

        2)男性>女性(男性が女性の2倍以上と多いが、女性も閉経後増加し、75歳以上では男女差はない)

        3)発症は午前6時から正午がもっとも多い

        4)冠危険因子(冠動脈硬化因子)

            (1)高コレステロール血症(高脂血症*6)、(2)喫煙、(3)高血圧、(4)糖尿病、 (5)肥満、(6)その他(ストレス、家族歴など)

[症状]    0)前駆症状(約半数→数週間前に狭心症様の胸痛発作)

        1)左前胸部・胸骨裏面の激烈な絞扼痛

            (1)持続時間が長い(20〜30分以上持続)

            (2)放散痛(左肩〜左上肢に生じることが多い)

            (3)ニトログリセリンは無効*4

        2)悪心、嘔吐、呼吸困難、動悸、冷汗を伴う

        3)発熱*1(37〜38℃;第1病日にみられ3〜5日以内に下熱)

[合併]    1)不整脈(発症後数日間にみられ致死的なものが多い)

            (1)期外収縮(約50%)

            (2)洞性頻脈(約30%)

        2)心不全(左心不全→+右心不全)

        3)ショック(疼痛や心拍出量減少による)

        4)その他(心破裂、心膜炎など)

[検査]    1)心電図検査:ST上昇*17、T波陰性化、異常Q波*5*11*17、冠性波の順で異常所見が出現(PQ時間短縮はみられない*17

        2)血液検査:CK上昇*4(クレアチニンキナーゼ)、AST(GOT)上昇*1*4*11LDH上昇*4白血球増加*1*5赤沈亢進*1CRP陽性*11、(GPTは上昇しない*4*5

[予後]    発症後30〜40%の患者が1時間以内に死亡

 

*.細菌性心内膜炎*7*8

[概要]    感染性心内膜炎の別称であるが、特に心奇形や弁膜症患者の弁膜やその支持組織に発生した細菌性感染巣を主徴とする敗血症をいう

[病因]    1)皮膚粘膜膿瘍や手術・処置により一過性に菌血症をきたし、病原体が心内膜に定着・増殖して細菌集落を含む疣贅(いぼ)を形成することによる

        2)一過性菌血症をきたす手術・処置として、歯科治療*8、扁桃摘出、消化管・気管粘膜を含む手術、気管支鏡、食道静脈瘤の硬化療法、尿道カテーテル、尿道手術、前立腺手術、感染巣の切開、経腟的子宮摘出、感染時の経腟分娩、静脈内カテーテル留置などが挙げられる

[症状]    1)感染症状:悪寒・戦慄、発熱*7

     2)心症状:心雑音*7*8

     3)塞栓症状:オスラー結節*7

[検査]    1)血液検査:貧血、末梢血免疫複合体増加、赤沈亢進

        2)尿検査:血尿*8、蛋白尿

 

C.動脈疾患

a.(粥状)動脈硬化症*2*5*8

[概要]    1)動脈硬化症には粥状動脈硬化Catherosclerosis)、中膜石灰化硬化、細小動脈硬化の3つがあるが、頻度がもっとも高いのが粥状動脈硬化である

        2)動脈硬化は動脈の分枝部に多く発症し、動脈壁の内膜が病変の主たる部位である

        3)中高年で問題となる疾患であるが、動脈硬化は少年期から出現している

[病因]    脂質を含む粥腫(アテローム)が内膜に蓄積し、内腔の狭窄、閉塞の原因となる

[誘因]    動脈硬化増悪血中因子

        1)総コレステロール*2*5、2)中性脂肪*2、3)HDLコレステロール*2

[疫学]    好発部位は、(1)腹部大動脈・腸骨動脈、(2)冠動脈近位部、(3)大腿動脈・膝窩動脈、 4)内頚動脈、(5)椎骨脳底動脈の順である

[症状]    1)動脈硬化病変自体は無症状である

        2)血管の狭窄による臓器の虚血、潰瘍*8、壊死

            (1)虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

            (2)脳血管障害(脳血栓、脳出血、脳血管性痴呆)

            (3)腎血管障害(腎血管性高血圧、腎不全)

            (4)その他(大動脈瘤など)

 

b.大動脈瘤

[概要]    大動脈が局所的に拡大した状態であり、中枢側の正常大動脈径より1.5倍以上の拡大を示すものと定義される

[疫学]    1)腹部大動脈瘤は胸部大動脈瘤よりも頻度が高い(約2倍)

            胸部大動脈癌は、(1)上行大動脈瘤(30%)、(2)弓部大動脈瘤(30%)、(3)下行大動脈瘤(30%)、(4)胸腹部大動脈瘤(10%)に分類される

        2)加齢で頻度は増し、原因は動脈硬化性がもっとも多い

        3)腹部大動脈癌は男性に多く(女性の4〜5倍)、喫煙が最大の危険因子である

[病因]    1)動脈硬化(中膜破壊による局所的脆弱性)

        2)マルファン症候群による中膜壊死、ベーチェット病による大動脈炎など

[症状]    多くは無症状

 

*.解離性大動脈瘤*8*14

[定義]    動脈内膜に裂孔ができて大動脈壁内に出血し、中膜が解離した状態

[症状]    突然に発症し、1)呼吸困難、2)前胸部、腰背部*14体幹部などに激痛がみられ*8、3)血圧は測定不能でショック状態、4)徐々に意識低下、5)大動脈外膜側へ破裂すると急死する(生命の危険をきたす*14

 

D.血圧異常

a.高血圧*2*12

[疫学]    1)高血圧の頻度は30歳以上でみた場合、男性で51.7%、女性で39.6%である.

        2)年齢が増すとともにその頻度は急激に増加する

[分類]    1)本態性高血圧:明らかな基礎疾患のない高血圧で大部分(90〜95%)を占める

                遺伝的要因の関与は30〜60%程度

        2)二次性高血圧:原因となる疾患が明らかなもの

                (1)腎性(腎炎、膠原病など)

                (2)内分泌性(クッシング症候群28*12褐色細胞腫29*2原発性アルドステロン症30コン症候群*12*2バセドウ病*2

                (3)神経性(脳圧亢進など)

                (4)心血管性(大動脈弁閉鎖不全症など)

[誘因]    1)食塩過剰摂取、2)肥満、3)アルコール多飲、4)運動不足、5.喫煙、6)ストレスなど

[症状]    1)無症状であるが、高血圧が著しい場合は、頭痛、頭重感、肩こりなどを呈する

        2)蛋白尿、血中ナトリウム低下31*12心肥大32*12眼底動脈狭細33*12

[診断]    WHO・ISHの血圧基準参照

 

b.低血圧症*7*12

[概要]    収縮期血圧が100mmHg以下を低血圧と呼び、血圧が低い、あるいは一時的に低くなるために日常生活に支障をきたす状態を低血圧症と呼ぶ

[疫学]    1)常に血圧が低い本態性低血圧は若いやせ型の女性に多い

        2)自律神経を介した起立性低血圧や神経調節性失神が多く、青少年期にみられることが多い

[病因]    1)一過性の脳濯流圧の低下

        2)症候性低血圧の原因疾患

            (1)内分泌疾患:アジソン病、シモンズ病*12、甲状腺機能低下症

            (2)循環器系:心筋梗塞、弁膜症、貧血

            (3)シャイ・ドレーガー症候群34*7

[症状]    めまい感、立ちくらみ、失神が主症状

 

 

第10章 血液・造血器疾患

A.赤血球疾患

貧血共通

[概要]    赤血球数、ヘモグロビン量が絶対的に減少した状態

[分類]    貧血により、小球性、正球性、大球性などの赤血球形態が異なる

[原因]    1)赤血球産生減少

        2)赤血球崩壊増大

        3)1、2の合併または原因不明

[一般症状]

        1)自覚症状:易疲労性、頭痛、動悸、息切れ、耳鳴りなど

        2)他覚症状:顔面蒼白、粘膜蒼白、頻脈など

 

a.鉄欠乏性貧血*1*2*7*8*11*16*17

[概要]    鉄が欠乏し、ヘモグロビン産生量が減少*1することで発生する小球性低色素性貧血*8

[病因]    1)鉄吸収障害:栄養不足、胃切除後

        2)鉄需要増大:妊娠*16*17、小児成長時など

        3)鉄過剰喪失:

            (1)子宮筋腫*2などによる月経過多*16や出産

            (2)痔疾や消化管出血(胃癌、潰瘍性大腸炎、大腸癌*16)による慢性出血*7

[症状]    1)貧血一般症状(頻脈*11動悸*17息切れ*17

        2)さじ状爪(スプーン様爪*11

 

3)舌炎(舌乳頭萎縮*11

[検査]    血液検査:血清鉄値の低下、血清フェリチン値低下*17(貯蔵鉄の指標)

 

b.巨赤芽球性貧血*1*2*7*8

[概要]    1)ビタミンB12もしくは葉酸が欠乏して起きる大球性正色素性貧血

        2)巨赤芽球性貧血のうち、自己免疫機序によって生じるビタミンB12の欠乏による貧血を悪性貧血*1*2*7*8という

[病因]    1)ビタミンB12欠乏

            (1)摂取不足:厳密な菜食主義者

            (2)吸収不良:胃全摘手術後の内因子35欠乏、吸収不良症候群

            (3)需要増大:妊娠、悪性腫瘍

            (4)利用障害:肝障害、先天性ビタミンB12代謝異常症

        2)葉酸欠乏

            (1)摂取不足(アルコール中毒、偏食)

            (2)吸収不良(吸収不良症候群)

            (3)需要増大(妊娠)

            (4)利用障害(葉酸措抗薬使用、肝障害)

[症状]    1)貧血症状

        2)消化器症状:食欲不振、萎縮性舌炎(ハンター舌炎)

        3)神経症状:末梢神経障害、脊髄後索・側索障害による腱反射減弱、位置覚や振動覚の低下、知覚鈍麻、しびれなど

[予後]    悪性貧血は自己免疫疾患であり、ほかの自己免疫疾患や悪性腫瘍(胃癌)の合併に注意する

 

c.溶血性貧血*8

[概要]    何らかの原因によって赤血球の寿命が短縮して起きる正球性正色素性貧血

[疫学]    先天性溶血性貧血では遺伝性球状赤血球症が70〜80%を占める。後天性溶血性貧血では自己免疫性溶血性貧血の頻度が高い

[病因]    1)赤血球自体に傷害があって発症するもの(赤血球膜異常、赤血球酵素異常、ヘモグロビン異常などが原因)

        2)赤血球外に原因があって発症するもの(自己免疫性溶血性貧血)

[症状]    1)貧血症状

        2)溶血症状(黄疸*8、脾腫、胆石症、血尿、腰痛、発熱など)

 

d.再生不良性貧血*3*6*7*8

[概要]    多能性幹細胞の障害が原因となって骨髄の低形成*7、末梢血液の汎血球減少*8(貧血、血球減少、血小板減少*3*6)をきたした病態である

[分類]    1)先天性:ファンコニ貧血

        2)後天性:

            (1)特発性:自己免疫的機序や造血微細環境の障害など

            (2)二次性:薬物(抗生物質、鎮痛薬、抗炎症薬など)や放射線など

[症状]    1)貧血症状

        2)出血症状:皮膚や粘膜からの出血傾向

        3)感染症状:気道感染症や尿路感染症などを併発

 

B.白血球疾患

a.白血病*1*2*5*12

[概要]    造血幹細胞もしくは造血前駆細胞が腫瘍化した白血病細胞(病的白血球)が骨髄、末梢血液で無制限に増殖し*1*5、正常の造血機能を障害する病態である

[病因]    1)原因不明

        2)放射線被曝*2、発癌物質、ウイルスなどが病因と考えられるものもある

[分類]    1)急性骨髄性白血病(AML):造血幹細胞から頼粒系へ分化する段階での細胞が腫瘍化して白血病細胞になったもの

        2)急性リンパ性白血病(ALL):リンパ球が分化する段階で白血病細胞になったもの

        3)慢性骨髄性白血病(CML):末梢血液、骨髄で頼粒球系の白血球が著しく増えているのが特徴

        4)慢性リンパ性白血病(CLL):高齢者に多く、Bリンパ球の腫瘍化したもの

        5)成人T細胞白血病:ヒト成人T細胞白血病ウイルス*3(HTLV-1)が原因となり、白血病化した異常な形態を示すT細胞が末梢血液骨髄、リンパ節で増殖し、正常の造血機能を障害する

[症状]    1)貧血症状*5(正球性正色素性貧血)

        2)出血症状*5血小板減少*5*12による)

        3)感染症状(発熱*13

[検査]    血液検査:白血病裂孔36*12がみられる

 

Cリンパ網内系疾患

a.悪性リンパ腫*13

[概要]    リンパ節もしくはリンパ組織に発症する悪性腫瘍である

[分類]    病理組織学的にホジキン病、非ホジキン性リンパ腫に分類され、さらに細分類される

[疫学]    ホジキン病と非ホジキンリンパ腫の比率はほぼ1:10である.

[病因]    原因不明

[症状]    1)リンパ節が腫大する

        2)食欲不振、体重減少、貧血*13など(進行時)

        3)感染症状(免疫能低下による)

 

D.出血性素因

a.紫斑病*12

[概要]    血小板数の減少、機能の障害、あるいは毛細血管壁が脆弱で出血斑を生じる病態

[疫学]    1)自己免疫疾患である特発性血小板減少性紫斑病が多い

        2)急性型は小児に多く、ウイルス感染症などに続発して発症し6カ月以内に治癒する

        3)慢性型は20〜40代の女性に多い

[病因]    血小板が血小板膜抗原に対する自己抗体と結合し、マクロファージで捕捉されて破壊され、血小板が減少する。骨髄での血小板産生は正常もしくは亢進している.

[症状]    出血症状(皮膚・粘膜の点状出血、斑状出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など)

[検査]    ルンペル・レーデ試験陽性37*12本態性血小板減少紫斑病)

 

b.血友病*1*2*

[概要]    1)血液凝固因子の先天的欠乏*2*3(第Ⅷ因子または第Ⅸ因子)によって出血傾向を起こす先天性の疾患である

        2)第Ⅷ因子の欠乏しているものを血友病A*1、第Ⅸ因子の欠乏しているものを血友病Bという

        3)X連鎖性(伴性)劣性遺伝疾患*11で、男性にのみ発症し、女性では保因者となる

[疫学]    血友病Aは男子出生10万人に13人程度、血友病Bは血友病Aの1/5程度

[病因]    X染色体上にある第Ⅷ因子もしくは第Ⅸ因子遺伝子の異常によって生じる

[症状]    1)歯や外傷の際に止血困難(軽傷例)

        2)打撲部の皮下血腫、関節内出血*13、筋肉内出血、血尿、頭蓋内出血など(重症例)

[検査]    血液凝固検査:凝固時間延長*11、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は重症度に応じて延長するが、プロトロンビン時間(PT)正常*12血小板数正常*11、出血時間正常、毛細管抵抗正常*11である

 

 

11章 神経疾患

A.脳血管疾患

脳血管障害(脳卒中38

出血性病変

脳出血

くも膜下出血

虚血性病変(脳梗塞)

脳血栓

脳塞栓

 

a.脳梗塞*1

[概要]    脳血流障害で不可逆的変化が起こり、脳実質の壊死を生じた状態をいい、脳血栓*1と脳梗塞に分けられる。

 (1)脳血栓*3*14

[病因]    脳の主幹動脈あるいはその分枝のアテローム硬化部分に血栓がつき、それが成長して動脈内腔を閉塞して生ずる脳動脈硬化により脳血管内腔が狭窄・閉塞することにより生じる

[分類]    1)アテローム血栓性脳梗塞:脳の主幹動脈あるいはその分枝の皮質枝に生じるアテローム硬化による

        2)ラクナ梗塞:脳深部の限局性虚血性病変をいい、脳穿通枝のアテローム硬化による

[症状]    1)前駆症状として一過性脳虚血発作39*3(TIA)を伴う(15〜50%)

        2)安静時に発症*3(睡眠中または起床後まもなく)することが多い

        3)緩徐で、段階的に麻痺などの神経症状が進行していくことが多い

        4)意識障害を欠くことが多い(梗塞の範囲が広い場合にみられる)

        5)高齢者に多い

[症状]    1)内頚動脈の閉塞:反対側の麻陣、知覚障害、優位半球の場合は失語、失行を生ずる重篤な場合は意識障害や死に至ることもある。逆にウィリス輪での交通が良好の場合はまったく症状を呈さないこともある

        2)前大脳動脈の閉塞:反対側の下肢に強い麻痺、感覚障害を生じる

        3)中大脳動脈の閉塞:対側の片麻庫、知覚障害に加え、同名半盲・1/4半盲を呈することがある。優位大脳半球では失語、劣位半球では病態失認、半側空間無視などの大脳皮質症状が出現する.

        4)後大脳動脈の閉塞*14:反対側の同名半盲*14がみられる

        5)椎骨脳底動脈系の閉塞:意識障害、自発性低下、同名半盲、眼球運動異常、回転性めまい、小脳症状などが多彩な組み合わせで出現する

[予後]    1)主幹動脈閉塞による大梗塞では脳浮腫も加わり、脳ヘルニアによる二次的脳幹圧迫により死亡する

        2)脳底動脈血栓症では無動性無言、閉じ込め症候群を呈する

 

(2)脳塞栓*1*4*9*16

[病因]    1)心臓内の血栓40が脳動脈に移動し、閉塞することによる

        2)急性期には閉塞動脈の再開通が高頻度にみられ、出血性梗塞に移行し*16、意識レベルが低下する

[症状]    1)発症は急激で、数分以内に症状は完成する

        2)頭痛や意識障害はあっても軽度

        3)一過性脳虚血発作(TIA)を欠くことが多い

        4)神経症状は脳血栓と同様(失語症など)

        5)若年者にもみられる

 

c.脳出血

[定義]    脳実質内へ出血したもの

[疫学]    2002年人口10万人対の脳出血年間死亡率は男性27.4人、女性22.3人

[病因]    高血圧症(70〜90%)、動脈瘤破裂、静脈瘤破裂、脳腫瘍内の出血、外傷等

[症状]    日中活動期の発症が多い

      (1)頭痛、(2)麻痺、(3)意識障害(麻痺の進行とともに増悪し、昏睡にいたる)

 

        1)被殻出血:高血圧性脳出血のなかでもっとも頻度の高い。レンズ核線条体動脈からの出血で反対側の片麻庫、知覚障害などを呈し、優位半球側の出血では失語、非優位側の出血では失行、失認を呈することもある。重症例では意識障害を生じる。

        2)視床出血:後大脳動脈の枝である視床膝状体動脈、視床穿通勤脈からの出血で被殻出血と同様に反対側の片麻庫、感覚障害を生じ、優位半球の出血では失語を生じる

        3)橋(脳幹)出血:橋出血が大半を占める。症状として、縮瞳、眼球運動障害、対側の片麻痺、感覚障害から出血量が多いと四肢麻輝をきたし、さらに呼吸障害、意識障害を呈する。

        4)小脳出血:上小脳動脈分枝の破綻によるものが多い。初発症状は悪心・嘔吐、めまい、頭痛が多い。歩行障害、運動失調、失調性言語などを認める。

        5)皮質下出血:原因は高血圧(半数)、脳動静脈奇形、海綿状血管腫、アミロイドアンギオパチーなどによる。頭痛、眠気・嘔吐、痙攣、意識障害などに加えて、出血部位の症状がみられる。前頭葉では一過性精神症状や、頭頂葉・側頭葉の優位半球では失語がみられ、後頭葉皮質下では半盲、失書、失読がみられる。

[合併]    1)脳ヘルニア、2)感染症、3)消化管出血

 

d.クモ膜下出血*1*3

[定義]    くも膜下腔(脳軟膜とくも膜の間の間腔)に出血する疾患で再発傾向が強い

[疫学]    2002年人口10万人対の年間死亡率は男性9.2人、女性14.1人で性差はない

[病因]    1)脳動脈瘤の破裂(70%)、2)脳動静脈奇形破裂(10%)、3)もやもや病41

        以上に高血圧の影響が加わる*1

[症状]    1)突然*3の激しい頭痛(頭部全体)

        2)悪心・嘔吐

        3)一過性の意識障害(30〜50%)

        4)髄膜刺激症状(髄膜炎、クモ膜下出血などで髄膜に刺激が加わった時に生じる症状)

            (1)項部強直42、 (2)ケルニッヒ徴候43、(3)ラセーグ徴候44、、(4)ブルジンスキー徴候45

[合併]    1)水頭症、2)脳梗塞、3)感染症、4)消化管出血

 

B.感染性疾患

a.髄膜炎

[概要]    ウイルス、細菌の感染による炎症が、髄膜腔に限定しているものを髄膜炎といい、脳にも波及した場合を髄膜脳炎という

 

(1)ウイルス性髄膜炎*9

[概要]    ウイルスが髄膜腔へ侵入し、炎症を惹起する。無菌性髄膜炎ともいわれる。

[疫学]    小児に好発する.

[病因]    1)エンテロウイルスが主たる病原体

        2)エコーウイルス、コクサツキーウイルスA・Bは夏季流行時にみられる

[症状]    1)発熱、頭痛で急性に発症

        2)項部硬直などの髄膜刺激症状があり、意識障害、痙攣、脳局在症状などが出れば、脳炎のかたちをとることがある

        3)発疹などの随伴症状を伴うことがあり、皮膚症状の発現1週間以内に頭痛、髄膜刺激症状を呈する

        4)脳炎型をとる単純ヘルペス(単純ヘルペス脳炎)では、感染が大脳の主に側頭葉*9や大脳辺縁系に起こり、意識障害など重篤な症状を示し、発熱、髄膜刺激症状、せん妄を含む意識障害、痙攣、異常行動、幻視などが出現する

 

(2)細菌性髄膜炎*11

[概要]    細菌が髄膜腔へ侵入し、炎症を惹起する。抜歯後に起こることもある。

[疫学]    乳幼児に好発する.

[病因]    1)病原体:インフルエンザ菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、大腸菌、クレブシェラ、黄色ブドウ球菌、リステリア菌

        2)感染経路

            (1)菌血症による血行性感染

            (2)中耳炎、副鼻腔炎のように隣接する感染巣からの直接入

            (3)心肺などの他臓器の感染からの血行性感染

[症状]    急性に発症し

        1)激しい頭痛、高熱(39〜40℃)

        2)髄膜刺激症状を呈す

        3)せん妄などの意識障害も出現

[検査]    髄液検査:細胞数増加*11、白血球・赤血球増加、蛋白増加*11糖低下*11髄液圧上昇*11

 

(3)結核性髄膜炎

[概要]    結核菌の髄腔内進入により起こる

[疫学]    1)肺結核が原因の70%を占め、成人では外傷、疲労などが誘因となる

        2)6歳以下に好発するが、1歳以下には少ない

[病因]    肺結核などのほかの結核病巣からの血行性播種による

[症状]    発症は比較的ゆっくり

        1)頭痛、嘔吐、発熱、項部硬直

        2)進行とともに水頭症、意識障害、動眼神経・外転神経などの脳神経麻痺がみられる

 

(4)真菌性髄膜炎

[概要]    全身状態が悪化した例に起きやすい

[疫学]    全身状態の悪化例で感染しやすく、30〜50%で白血病、ホジキン病、AIDSなどの基礎疾患を有する.

[病因]    1)原因菌としてはクリプトコッカスがもっとも多い

        2)抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬の長期大量投与は本症の誘因となる

[症状]    発症は比較的ゆっくり

        1)頭痛、嘔吐、発熱、項部硬直を認める

        2)脳実質内に肉芽腫が形成されれば、巣症状も呈する

 

C.脳・脊髄腫瘍

a.脳腫瘍*6*14*15

[概要]    頭蓋内に発生するすべての腫瘍の総称

[分類]    1)原発性脳腫瘍:80%は、髄膜腫、神経膠腫、下垂体腺腫、神経鞘腫の4種類

        2)転移性脳腫瘍

[疫学]    1)40〜50代にもっとも多く、60歳以上や2歳以下には少ない

        2)神経膠芽腫は30〜60歳代に多い

        3)髄膜腫、下垂体腺腫は30〜50歳代に多い

        4)髄膜腫、神経鞘腫では男性より女性に多い

[症状]    1)腫瘍増大症状

            頭蓋内圧亢進症状:頭痛、嘔吐、うっ血乳頭(乳頭浮腫*6

        2)局所神経症状

            (1)前頭葉の運動野:対側の片麻障

            (2)運動性言語中枢:運動性失語

            (3)側頭葉の感覚性言語中枢:感覚性失語

            (4)視放線障害:四分の一半盲

            (5)優位側の頭頂葉:ゲルストマン症候群(手指失認、左右失認、失算、失読、失書)

            (6)後頭葉:同名半盲

            (7)下垂体腺腫:視神経交叉部を圧迫し、視力低下、両側耳側半盲

            (8)聴神経腫瘍*15耳鳴り*14、難聴、めまい、顔面麻痺*14、顔面の感覚異常、失調性歩行*14

 

b.脊髄腫瘍

[概要]    脊髄に生じた悪性腫瘍の総称

[疫学]    1)発生頻度は脳腫瘍の1/8〜1/6

        2)好発年齢は、40〜60歳

        3)男女比は、約3:2で男性に多い

[症状]    1)疼痛(脊髄後根の刺激による根性痛)

        2)進行性に悪化する運動麻障や知覚障害がある

        3)脊髄圧迫による痙性麻庫では歩行障害が強く、とくに階段の昇降に困難を感じる

 

D.基底核変性疾患

a.パーキンソン病*3*7*12*16*17

[定義]    中脳の黒質*12にあるメラニン細胞の変性脱落が生じる大脳基底核変性疾患である

[疫学]    1)初発年齢は50〜60歳*16

        2)女性の有病率は男性の1.5〜2倍ある

[病因]    不明

[症状]    発症時は一側性に発現*16し、ゆっくりで進行性

        1)振戦*3安静時*17に丸薬丸め運動が発現し、随意運動時には消失

        2)筋強剛*3(筋固縮):硬直がみられ、鉛管(歯車)現象が生じる

        3)寡動(無動*3*7)[運動減少症]:仮面様顔など

        4)姿勢反射(姿勢調節)障害:前屈姿勢*16、すくみ足、小歩歩行

        5)自律神経症状*16(膏顔、流涎、多汗、便秘、冷え症)

        6)精神症状(抑うつ、不眠)

        7)その他:小字症、巧緻障害などがみられるが、麻痺はみられない

[治療]    基本的な治療薬としてLドーパがある

[予後]    Lドーパの導入後に予後は改善され、生命予後は一般人口の90%以上となった

 

c.脳性小児麻痺

[概要]    受胎から新生児(生後4週以内)までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく永続的な運動および姿勢の異常をいう.

[病因]    1)出生前では脳形成異常、胎内感染、先天性水頭症などが原因となる

        2)周産期、新生児期では仮死(低酸素性虚血性脳症)、頭蓋内出血、高ビリルビン血症(核黄疸)、髄膜炎などが原因となる

[症状]    症状は満2歳までに発現する

        1)定頚や坐位などの運動発達の遅れ、ミルクの飲み方が下手、反りやすい

        2)協調運動障害による姿勢の異常

        3)筋トーヌス亢進(痙直)

        4)異常運動

            (1)ジストニア(体幹・四肢近位筋をねじるようなゆっくりとした不随意運動)

            (2)アテトーゼ様運動(四肢遠位部優位に全身に生じるゆっくりとした、ねじるような奇妙な不随意運動)

*.ウィルソン病*4*10*15

[症状]    1)錐体外路症状:構音障害*10*15羽ばたき運動*4、ジストニー、アテトーゼ

        2)精神症状:感情や性格の変化

     3)肝硬変*10*15症状:黄疸、肝・脾腫大

     4)眼症状:カイザー・フライシャー環46*10*15

     5)その他:下痢、腹痛など

 

E.その他の変性疾患

a.脊髄小脳変性症

[概要]    脊髄性もしくは小脳性の運動失調を主症状とする神経変性疾患の総称

[疫学]    1)60%が非遺伝性のもので、40%が遺伝性とされている

        2)発症年齢は通常中年以降

[病因]    原因は不明で、小脳や脊髄の神経核や伝導路の萎縮が生じる

[症状]    徐々に潜在性に発症し、緩徐進行性の臨床経過を示す

        運動失調症状(小脳性ないし脊髄後索性の運動失調を主症状)

 

F.痴呆性疾患

a.認知症*5*8*12*17(痴呆症)

[概要]    1)認知症(痴呆)は中枢神経系の高次機能が何らかの原因で慢性的に障害された病態

        2)記憶障害、認知機能障害(失語、失行、失認、高次脳機能の障害)の1つ以上によって、社会生活あるいは職業が困難になる程度の知的能力の低下がみられる

[病因]    痴呆がみられる疾患には、

        アルツハイマー病、アルツハイマー型老年認知症、脳血管型認知症、

[分類]    1)一次性痴呆(原因不明の広範な細胞変性による)

            アルツハイマー病*5*8、アルツハイマー型老年認知症、ピック病47*12*17

        2)二次性痴呆(脳血管障害*5、その他の原因により類似の症状を示すもの)

        多発梗塞痴呆、ビンスワンゲル病48*12正常圧水頭症49*5*12ハンチント    ン舞踏病50*8クロイツフェルト・ヤコブ病51*12ウィルソン病*8

 

(1)アルツハイマー病・アルツハイマー型老年認知症(痴呆)

[概要]    アルツハイマー病は徐々に発症し、進行する記憶・認知機能障害を主症状とする

[分類]    1)アルツハイマー病:65歳以前の早期発症

        2)アルツハイマー型老年認知症(痴呆):65歳以後の晩期発症

[病因]    原因不明

[症状]    1)早期:物忘れ(特に近時記憶障害)が初発する。気分が変わりやすい。道に迷う。

                計算障害、判断力、認識力の低下

        2)中期:失語、失行、失認が生じ、空間や時間の見当識障害や徘徊がみられる。

            感情変化、幻覚、妄想がみられるが、過去の記憶や喜怒哀楽、他人との関係を保持する能力や人格は保たれる。

        3)末期:起立・歩行が不能となり、咀嚼・嚥下も出来なくなる。人格も失われ記憶がなくなり、他人が認識できなくなる。

[予後]    全経過は、6〜15年で平均9年である

 

(2)脳血管型認知症(痴呆)

[概要]    1)高齢者でラクナ梗塞を多発することにより二次的に発症する

        2)通常高血圧症の既往のあるものに発症する.

[疫学]    脳血管障害の21〜35%が認知症(痴呆)を呈する

[病因]    広範な白質の病変や脳梁、海馬、視床をある程度以上障害するような病変があると認知症(痴呆)が起こる.

[症状]    1)不眠、頭重など身体愁訴を伴った抑うつ状態が認知症(痴呆)症状に先行することがある

        2)物忘れ、注意集中困難、精神活動の低下、作業内容の貧困化、自発性の減退、決断力の鈍化、感情失禁、抑うつ、刺激性などが特徴である

        3)症状全体が階段様増悪や動揺するのが特徴

 

G.筋疾患

a.重症筋無力症*12*15

[概要]    1)神経筋接合部の後シナプス膜のアセチルコリン受容体に対する抗体により、神経筋接合部*12での伝達障害が生じる自己免疫疾患*15。骨格筋の易疲労性と筋力低下を主症状とし増悪・寛解を繰り返す

        2)甲状腺機能亢進症と慢性甲状腺炎は重症筋無力症に合併することがある

[疫学]    小児から青年期に多く、男女比は1:2で女性に多い*15

[症状]    1)骨格筋の易疲労性*15(夕方>朝方)動作反復による増悪し、休息により回復する特徴

        2)筋力低下(多くは全身性)→ついには呼吸筋麻痺で死亡

            (1)外眼筋麻痺(80%:上眼瞼下垂・複視)

            (2)舌咽頭筋麻痺(60〜70%:嚥下困難、構語障害)

            (3)表情筋麻痺(筋無力症顔貌)

            (4)頸部筋麻痺(頭部前屈状態、首下がり)

            (5)四肢脱力(四肢筋のみの脱力はみられない)

[治療]    胸腺摘除は、小児や高齢者を除き早期に施行される

 

b.進行性筋ジス卜口フィー*2

[概要]    筋ジストロフィーとは進行性の筋力低下・筋萎縮*2をきたし、骨格筋組織の筋細胞構築の乱れ、間質の増生、脂肪化および筋細胞の壊死・再生を特徴とする遺伝性疾患*2の総称

[疫学]    1)デュシェンヌ型はもっとも多く、男子のみにみられ、通常2~4歳ごろに歩行異常で発症する*2

        2)先天性筋ジストロフィーは男女を問わず約20,000出生に1発生する.

[病因]    原因は不明であるが、筋表面膜の遺伝的欠陥があり、骨格筋の壊死・変性・再生と結合組織増生がみられる

[症状]    1)乳幼児期から青年期に、歩行開始の遅延、起立・歩行の障害、上肢の挙上困難などで発症し徐々に進行する

        2)または生下時に筋緊張低下として発症する(先天性筋ジストロフィー)

        3)各型の特徴

            (1)デユシェンヌ型

             1.起立・歩行の障害(歩行開始の遅延、動揺性歩行、登坂性起立*2)で3歳頃までに発症する

             2.筋力低下・筋萎縮は対称的で徐々に進行し、12歳までに歩行不能となる

             3.腓腹筋の仮性肥大

             4.尖足、脊柱の側弯など

         (2)肢帯型(デュシェンヌ型を除く、四肢近位筋筋力低下により発症するもの)

             1.筋力低下・筋萎縮、腓腹筋の仮性肥大を示すが、知能の異常はみられない

         (3)顔面肩甲上腕型

             1.常染色体優性遺伝を示す

             2.10歳代以降に、上肢近位筋の筋力低下により発症

             3.翼状肩甲

             4.ミオパチー顔貌(顔面筋の筋力低下にる)

         (4)遠位型

             1.常染色体優性型はきわめてまれ

             2.10代後半から30代に下肢遠位筋の筋力低下で発症

             3.徐々に四肢近位、躯幹の筋群に及び、発症後10年以内に多くが歩行不能

         (5)先天性筋ジストロフィー

             1.常染色体劣性遺伝の疾患のなかでもっとも多い

             2.生下時筋緊張低下が目立つ

             3.高度の精神発達遅滞があり、言語を獲得できない例が多い

             4.運動能力の獲得も遅れ、通常、起立・歩行の段階に到達しない

             5.高度の顔面筋罹患、巨舌があり、特異な顔貌を呈する

[予後]    予後は不良であり、呼吸不全や心不全で死亡する

 

*.筋緊張性ジストロフィー症*9

[症状]    1)ミオトニア*9:手を握りしめたのち、すぐに開くことができない筋強直症状

     2)筋力低下、筋萎縮

         (1)遠位筋から顕著になってくるが、進行すれば近位筋も侵される

         (2)顔面筋、頸筋、側頭筋、咬筋の萎縮も特徴的で、眼瞼下垂を伴った斧様顔貌と呼ばれる特有な顔貌を呈する

     3)心筋障害による胸部症状:不整脈、頻脈、心電図上刺激伝導系異常がみられる

        4)白内障*9:高率に合併する

       5)平滑筋障害:上部消化管の平滑筋障害による嚥下障害、アカラシア、巨大結腸症、肛門部でのミオトニー、気管支平滑筋障害による呼吸困難がみられる

    6)内分泌異常:性腺障害*9(男性では精巣萎縮、インポテンツ。女性では月経異常、不妊、流・早産)、糖代謝異常がみられる

 

H.運動ニューロン疾患

a.筋萎縮性側索硬化症*4*5*6*8*12

[概要]    上位・下位運動ニューロン(脊髄前角*12)の変性により生じ、緩徐に発症し進行性の経過をとる疾患

[原因]    不明

[疫学]    男性にやや多く、40〜60歳頃に極めて緩徐に発症

[分類]    1)普通型    :上肢の脱力で発症(50%)

        2)球型    :構語障害、嚥下障害で発症(25%)

        3)偽多発性神経炎型:下肢の歩行障害、脱力で発症(25%)

[症状]    1)筋力低下*4*8、筋萎縮(左右非対称)

            (1)四肢の症状は通常一側遠位部から始まり両側性に発展

            (2)末期には呼吸、咀嚼、嚥下障害が生じて呼吸管理が必要となる

        2)外眼筋、肛門括約筋、排尿筋、心筋、平滑筋は末期でも障害されない

        3)球麻痺症状:舌下神経核障害*13(最も侵されやすい)、構音障害、舌萎縮、嚥下困難*5

        4)病的反射(バビンスキー反射*5)出現、深部反射亢進*5*8線維束攣縮*5*8

        5)感覚障害、異常感覚、不随意運動*6*8はみられない

 

I.末梢神経性疾患

a.ギランバレー症候群*2*3*6*8*11

[概要]    自己免疫疾患で末梢神経の髄鞘が冒されて運動・感覚神経の両方が障害される

[症状]    上気道感染(感冒*6)または消化器感染1〜3週後に急性に発症*3する(約70%)

        1)運動麻痺(四肢脱力*2*3*8四肢麻痺*6);多くは下肢に発症し、上行性に発展)

        2)両側*2顔面神経麻痺*6*8(約50%)

        3)構音障害、嚥下障害*2呼吸障害*2、不整脈など

        4)深部反射減弱・消失*8、バビンスキー反射(-)、振戦(−)*3意識障害(−)*6

[検査]    髄液検査*11髄液蛋白上昇*8蛋白細胞解離*3

[治療]    免疫グロブリン療法が有効52

 

b.圧迫性および絞扼性ニューロパシー

(1)橈骨神経麻痺

[概要]    橈骨神経がその走行中に骨折や圧迫などにより障害を受けると生じる

[症状]    1)手背から前腕の橈側の知覚障害

        2)手関節背屈、母指の伸展、指節間(IP)関節・中手指節(MP)関節の伸展ができず下垂手を生じる

 

(2)正中神経麻痺

[概要]    1)正中神経麻痺は、外傷のほかに絞拒性神経障害や神経炎で発生する

        2)正中神経の傷害は、鋭敏な知覚と巧敏性の要求される手にとって致命的なダメージを与える.

[病因]    1)絞扼性麻痺

            (1)肘関節近傍で上腕二頭筋腱膜背側、(2)円回内筋の二頭間、(3)浅指屈筋アーチの深層

[症状]    1)母指から環指(薬指)槙側1/2の掌側の知覚障害

        2)母示指の屈曲と母指の対立が不可能となり手関節屈曲と中指屈曲もできない

        3)母指対立が不能になり、猿手となる

 

(3)尺骨神経麻痺

[概要]    絞拒性神経障害で発生し、肘部管症候群、尺骨神経管症候群がある

[病因]    1)小児期の上腕骨外顆骨折後の外反肘、顆上骨折後の内反肘など後天的なもの

        2)先天的解剖異常である滑車上肘筋の存在

        3)変形性肘関節症の骨棘で肘部管が狭小化する

[症状]    1)尺側手根屈筋、中・環・小指の深指屈筋、指外転筋、小指対立筋、母指内転筋、骨間筋群の麻痺のため手の巧轍運動の障害、把動作の障害が著明となる

        2)鷲手を呈する

 

(4)総排骨神経麻痺

[概要]    下肢の神経麻痺のなかではもっとも頻度が高い

[病因]    総排骨神経は膝関節の後ろで坐骨神経から分枝し、腓骨頭の外側取り巻くように走行するのでこの部分での外部からの圧迫によるもの多い

[症状]    1)下腿外側から足背の知覚障害を示す

        2)足関節および足指の背屈不可能となり、下垂足を呈する

(5)脛骨神経麻痺

[概要]    腔骨神経は坐骨神経の大腿下1/3で内側に分枝した神経で、おもに足の足底筋と下後面・足底の知覚に関与する

[病因]    足根管症候群として内果の下の部分で圧迫を受けることが多い

[症状]    足の底屈・内転が不可能となる.

 

c.末梢性顔面神経麻痺*6(ベル麻痺)

[概要]    末梢性顔面神経麻庫の50〜70%の例は特発性・急性に発現するベル麻痺である

[疫学]    1)発生頻度は人口10万人当たり30人前後で、男女差はない

        2)30〜40代に多い.

[病因]    ウイルスや他の原因で腫脹し顔面神経管内で圧迫され麻痺をきたす

        1)原因不明のものをベル麻痺という

        2)帯状疱疹ウイルス感染によるものをラムゼイハント症候群*7という

        3)最近では単純ヘルペスが関係するとする説が強い

[症状]    通常一側性の末梢性麻痺を呈する

        1)表情筋麻痺

            (1)額のしわ寄せ困難

            (2)閉眼不可能となり兎眼*6がみられ、ベル現象の確認ができる

            (3)鼻唇溝が浅い

            (4)頬を膨らませることができなくなり、口角が下垂し、水が漏れ、口笛がふけない

        2)舌前2/3の味覚障害*6、涙分泌障害、唾液分泌障害、聴覚過敏*6、耳痛など(病変が膝神経節に強い場合)

 

J.神経痛

 

a.三叉神経痛*17

[概要]    脳幹からの出口で微小血管が三叉神経を圧迫し、一側の顔面に針で刺すような電撃痛が生じる

[疫学]    40歳以降に発症*17し、男女比は1:1.5〜2とやや女性に多い

[病因]    屈曲した走行異常血管や動脈硬化性病変をもつ血管が三叉神経根を圧迫して起こるとされる

[症状]    電撃痛

        1)疼痛が誘発される部位*17(triggerzone)が存在する

        2)咀嚼、洗顔、髭剃りなどの動作の際に、一側の顔面に針で刺すような痛みが生じる。

        3)痛みの持続時間は数秒間と短い*17が、程度が激烈なため、患者はこれらの動作を避けるようになる

[治療]    テグレトールを主体とする薬物療法が行われる*17

 

b.肋間神経痛

[概要]    肋間神経がその走行の途中で、何らかの原因により刺激されて、その神経の走行に沿った帯状の痛みを生じる

[疫学]    30〜40歳代以降に多い

[病因]    肋間神経が帯状庖疹、腫瘍、胸椎椎間板ヘルニア、黄色靭帯骨化症に刺激されて起こる

[症状]    1)肋間部痛:一側性の持続的な痛みが半帯状に胸郭を取り巻くように放散する.その痛みが強いときには呼吸によって増悪し、また、咳、あくび、怒責などで増強する

        2)圧痛:肋間神経を肋骨の下で圧迫すると、(1)圧迫部位、(2)脊椎の外縁、(3)胸骨傍部に圧痛を認める

 

c.坐骨神経痛

[概要]    坐骨神経に沿って、下肢から腰背部にかけて疼痛をきたすもの

[疫学]    30〜40歳代の発症がもっとも多い

[病因]    1)原因として腰椎椎間板ヘルニアによることがもっとも多い(80%)

        L4/L5ついでL5/S1の2つが大部分を占める

        2)50〜60歳以降では、腰部脊柱管狭窄症が原因となることも多い

[症状]    1)腰部痛

        2)坐骨神経に沿った放散痛

            (1)大腿後面部から膝窩部を下がって踵から足に放散する

            (2)せき、くしゃみ、息みで増強し、臥位をとると軽快する

        3)激しい持続性の腰痛・下肢痛の場合は、脊柱管近傍への転移性腫瘍を考える

 

d.後頭神経痛

[疫学]    40歳代以降に多く、三叉神経痛と合併することがある

[病因]    大後頭神経(第2頚神経の後枝)、小後頭神経・大耳介神経(ともに頚神経叢の枝)の分布領域の神経痛である.

[症状]    大後頭神経の領域に相当して、表在性の痛みを生じる

[分類]    1)発作性神経痛:痛みが間欠的、発作的で痛みは強くー側性に始まり後頭部半側に放散する.三叉神経痛とよく似ており、痛みは時として灼熱痛を伴う

        2)持続的神経痛:一側または両側の後頭部を占め、大後頭神経の走行上を圧迫すると、ときとして強い痛みを惹起する(上部頚髄の腫瘍、脊髄空洞症、頚椎疾患に伴う)

K.機能性疾患

a.緊張型頭痛(筋緊張性頭痛、筋収縮性頭痛)

[概要]    両側後頭部から項部にかけて起こり、締めてけられるような鈍痛で、発症は徐々に起こり、比較的長く続く。慢性、再発性の経過をたどり、発熱や意識障害など、ほかの神経症状を欠く

[病因]    慢性の筋収縮、それに伴う頭皮血管の収縮による

[症状]    1)両側後頭部から項部にかけて起こり、ときに側頭部、前頭部にみられる

        2)鈍痛が多く、圧迫感、絞拒感を訴える

        頭部をバンドで締めつけられる感じゃお釜をかぶせられた感じという訴えが多い

        3)発症はゆっくりであり、比較的長く続くが、我慢できる程度のことが多い

 

b.片頭痛*13

[概要]    反復発作性、間欠的に起きる拍動性の頭痛で、目がチカチカする(閃輝暗点)などの前駆症状があり、悪心・嘔吐を伴うことが多い

[疫学]    1)男女比は1:2で女性に多い

        2)思春期頃から多くなり、最盛期は30歳代である

[病因]    1)脳内、髄膜、頭蓋外血管の異常反応と血管活動性物質が関与している可能性が高い

        2)何らかの誘因により脳血管の異常な収縮がまず起こり、その際セロトニンが血中に放出され、脳血管の拡張と血管外漏出が起こる。これが三叉神経を介し、痛みを引き起こす

[誘因]    誘発因子としてチョコレート、チーズ、トマト、オレンジ、赤ワイン、ストレス

[症状]    慢性、再発性の経過をとり

        1)前駆症状として局所神経症状を伴う*13ことがある

        2)一側性の拍動性頭痛で食欲減退、悪心・嘔吐を伴うことが多い

[分類]    片頭痛にはいくつかの亜型がある

        1)古典型片頭痛

            (1)視覚異常53(閃輝暗点、半盲)が前駆症状

            (2)拍動性頭痛がー側性または両側性に出現し数十分で、極期に達し、数時間続き、その間、悪心・嘔吐を繰り返す

            (3)家族性のことが多く、60〜80%にみられる

        2)普通型片頭痛:片頭痛のなかではもっとも多く、80%を占める

            (1)前駆症状をもたず、拍動性頭痛が最初から出現し、随伴症状もみられる

            (2)頭痛発作は4〜72時間持続し、片側性、拍動性で激しい頭痛を特徴とし、階段の昇降や普通の身体活動で悪化する

            (3)悪心・嘔吐吐がみられ、光や騒音を嫌い、寝込んでしまうことが多く、家族性の頻度は低い.

        3)片麻痺型片頭痛:片頭痛発作中または発作後に片麻障がみられるまれな疾患

            (1)片麻癖が繰り返しみられるが、後遺症は残さない

            (2)小児でも成人でもみられる

        4)眼筋麻痺型片頭痛:片頭痛に眼筋麻痺を伴う疾患で小児にみられるがまれ

            一過性の動眼神経麻痺を呈し、通常は頭痛の消失とともに眼筋麻痺も消失するが時に数日間も持続することがある

 

第12章 リウマチ疾患・膠原病

A.リウマチ性疾患

a.関節リウマチ*11*12*13*15*17

[定義]    関節を主病変として全身の結合組織を多発性におかす、慢性の炎症性疾患で寛解と再燃を繰り返す

[疫学]    1)好発年齢は20〜50歳代

        2)男1:女性4で女性に多い

[病因]    真の原因は不明であるが、マイコプラズマやウイルスなどの微生物感染が原因とも考えられている

[症状]    1)関節症状:

            (1)初期には手などの朝のこわばり*12

            (2)多発性・対称性関節炎症状*12

            (3)進行→関節変形・関節強直*12

            (4)好発関節

             1.手指関節(中手指節関節、近位指節関節)

             2.頸椎環軸関節

            (5)関節変形

             1.スワンネック変形*11*13

             2.ボタン穴変形*11*13

             3.尺側偏位*11*13

             4.外反母趾

             5.ハンマー状足趾(第2〜5趾が上方に浮き上がる)

        2)皮下結節*17:リウマトイド結節(20%)→手・肘関節伸側に出現

        3)心血管系:貧血、レイノー現象、心障害(30%)、血管炎*17

       4)神経系:知覚障害(四肢末梢)、手根管症候群など

[合併]  5)骨筋肉系:筋萎縮、骨粗鬆症(30%)

       6)呼吸器系:胸膜炎、間質性肺炎*17(肺線維症)(30〜50%)

        7)泌尿器系:腎障害

        8)その他:倦怠感、食欲不振、微熱、虹彩炎、シェーグレン症候群など

[検査]    血液検査:RA因子(リウマチ因子、リウマトイド因子)陽性、CRP陽性*15赤血球数減少*15赤沈値亢進*15

 

B.膠原病

a.全身性エリテマトーデス(SLE)*1*5*12*16

[定義]    自己免疫疾患で、抗核抗体など多彩な自己抗体と免疫複合体沈着による全身多臓器病変を特徴とする慢性炎症性疾患*1で、寛解と再燃増悪を繰り返す*1

[疫学]    1)男1:女9〜10と女性に多い

        2)20〜40歳代に好発*1*16

[病因]    原因は不明であるが、遺伝的素因、環境要因、内分泌環境が作用して免疫寛容を破綻させ、自己抗体の持続的産生をもたらして免疫複合体の沈着により組織障害が引き起こされる

[症状]    1)皮膚粘膜症状:蝶形紅斑*5*16、鼻腔・口腔潰瘍*12、色素沈着、頭髪脱毛*12、光線(日光)過敏症、レイノー現象*5

        2)関節筋肉症状:多発性の関節痛*5*16・非破壊性関節炎、筋肉痛

       3)心血管症状:心膜・心筋炎

       4)腎症状:糸球体腎炎を併発しやすい、乏尿、蛋白尿、浮腫

[合併]  5)神経精神症状:知覚障害、痙攣*12、軽度の錯乱状態〜統合失調症

       6)呼吸器症状:胸膜炎、間質性肺炎

        7)全身症状:発熱、体重減少など

[検査]    血液検査:赤沈値亢進*1抗核抗体陽性*5

 

b.全身性硬化症(強皮症)

[概要]    1)皮膚硬化と血管病変(レイノー現象と小血管障害)を特徴とし、全身の結合組織に炎症と変性、ならびに小血管病変も伴う慢性炎症性疾患である

        2)皮膚硬化が特徴なのでかつては強皮症と呼ばれていたが、全身の臓器に硬化がくるので、全性硬化症、あるいは進行性全身性硬化症ということが多い

[疫学]    1)男女比は1:7で女性に多い

        2)好発年齢は35〜55歳である

[病因]    1)原因は不明である

        2)基本的な病変は、各臓器における間質線維化、小血管病変、実質細胞萎縮、単核球浸潤である

[症状]    1)皮膚症状:1.レイノー現象(必発)2.皮膚硬化54

        2)関節症状:多発性の関節のこわばり、疼痛などが高頻度でみられる

        3)消化管症状:舌小帯肥厚・短縮、食道病変、下痢・便秘、消化不良症候群

        4)呼吸器症状:間質性肺炎(肺線維症)

        5)心症状:心筋炎、心膜炎

        6)その他:肺高血圧、悪性高血圧

 

c.ベーチェット病*3*8*14

[定義]    真の原因は不明であるが、遺伝的素因の解明が進み、HLA−B51(ヒト白血球抗原)との強い相関が明らかにされている

[疫学]    1)好発年齢は20〜40歳代*3で、男女比はほぼ同数である

        2)わが国における患者数は18、000人と世界で最も多い

[症状]    1)4大症状

            (1)口腔粘膜アフタ性潰瘍*3

            (2)皮膚症状(皮疹・紅斑)

            (3)眼のブドウ膜炎*3*8

            (4)外陰部潰瘍*3*14

        2)その他:針反応55、関節炎、副睾丸炎、血管病変、中枢神経病変、消化器病変など

[予後]    若年男性では症状が悪化しやすく、失明、血管症状、神経症状が強い

 

 

第13章 その他の領域

B.一般外科

a.損傷概論

(1)熱傷*3*7*9*10*11*14

[病因]    高熱の気体(炎、蒸気、ガス)、液体(お湯、油脂、化学品)、固体、(電熱器、熱くなった金属機器類、食品、カイロ)に接触した場合や直射日光に長時間さらされたような場合に熱の物理的作用で    発生する

[症状]    1)皮膚の発赤、熱感、疼痛、腫脹

        2)水痘形成、皮膚の壊死、炭化

        3)重症になると体水分の喪失、ショックを起こし生命に関わる

        4)重症熱傷時の症状

            (1)ショック期:循環血流量の低下、上部消化管障害(十二指腸潰瘍*3)、急性腎不全(腎障害*3

            (2)ショック離脱期:尿量増加、肺浮腫

            (3)感染期:低蛋白血症*3、免疫異常、感染症(肺炎、敗血症など)を併発

[範囲]    熱傷範囲*7は受傷面積が患者の全体表面積(年齢*7に関連)の何%に相当するかで表す

        1)9の法則*14:成人の熱傷範囲を算出するために身体各部位の面積を体表面積の9%またはその2倍の18%に相当するものとして簡略化したものである

        2)手掌法:患者の片手の手掌の面積が体表面積の約1%に相当することから熱傷範囲を算定する方法である.

[分類]    熱傷深度*7による分類

        1)Ⅰ度熱傷:表皮*9の損傷で皮膚の発赤、熱感、疼痛を示すが、水疱は形成しない

        2)Ⅱ度熱傷:真皮の損傷で、著しい炎症症状と水疱形成*9*14を認める

        3)Ⅲ度熱傷:皮膚全層の凝固壊死で創面は蒼白・乾燥し、水疱形成や痛覚はない。皮膚移植が行われる*9

[治療]    1)緊急処置として熱傷局所の冷却をおこなう*11

        2)広範囲の熱傷時には初期治療として輸液を行う*10*14

 

(2)凍瘡と凍傷

[概要]    1)凍瘡とはいわゆる「しもやけ」のことで、氷点下にならない寒冷によって手足や耳介などの血流不全のために寒冷暴露の数時間後から翌日にかけて出現する

        2)凍傷とは氷点下の強い寒冷にさらされたために手指、足趾、手足、耳介、鼻などの組織が末梢循環不全と凍結による組織壊死を起こした状態である

[病因]    1)寒冷刺激持続により血流うっ滞、浮腫、組織傷害が起こり、凍瘡になる

        2)さらに氷点下の強い刺激が続き組織凍結を起こしてくると、細胞内脱水、浸透圧上昇、酵素活性の低下、膜透過性異常を起こし凍傷となる

[症状]    以下、凍傷について述べる

        1)浅達性(皮膚表面にとどまるもの):皮膚の発赤、浮腫、腫張、水癌程度まで

        2)深達性(皮下組織に達するもの):皮下、骨、軟骨にまで組織障害が及ぶもの

[治療]    凍結した組織は外力によって容易に損傷されるので、マッサージもしてはならない

 

b.ショック*8*11*14*15

[病因]    1)出血性ショック:出血により循環血液量が約1/3に減少*10*14すると生じる。頻脈*8*11脈拍微弱*15血圧低下*8*11*15意識障害*8*11呼吸促迫*15などが生じる

       2)心原性ショック:心筋梗塞など心臓のポンプ機能低下による

       3)細菌性ショック:細菌の産生するエンドトキシン*14によるもので、心拍出量は増加

       4)神経性ショック:血管の拡張・収縮(血管壁の緊張低下*14)に関与する神経の失調で生じる

       5)アナフィラキシーショック:Ⅰ型アレルギー反応(抗原抗体反応*14)で生じる重篤な病態をいう

 

c.外科的感染症*3*9

[分類]    1)*3(せつ):ひとつの毛嚢から発生したおでき

       2)*3*9(よう):多数の毛嚢から発生したおでき

       3)蜂巣炎(蜂巣織炎*3:皮下のびまん性の化膿巣(かつては蜂窩織炎といった)

       4)瘭疽*3*9(ひょうそ):指尖部の化膿性病変

       5)丹毒(たんどく):皮膚・皮下の蜂巣炎で、潰瘍は形成しない

       6)化膿性骨髄炎*9:開放性骨折などが原因となる骨髄の感染

[原因]    以上の原因菌として

         ブドウ球菌*4>連鎖球菌*3>まれに緑膿菌、大腸菌、クレブシェラ菌など

 

e.心肺蘇生法*5*10*11

[分類]    1)一次救命処置*5*10

            心肺停止状態の患者に対して最初の数分間に行うべき処置をいい、医療機材を用いる必要のない処置と同義。気道確保、人工呼吸、心マッサージをいうが、最近ではAEDを含む

        2)二次救命処置

            医療機関に搬送された心肺停止患者に対して、ICU部門に引き渡す前に行われる処置

[方法]    心マッサージ

        1)1分間に100回*11

        2)圧迫の深さ4〜5cm沈下する程度*11

        3)加圧と除圧の比は1:1*11

        4)心マッサージと人工呼吸の比は30:2*11

 

C.麻酔科

c.麻酔*1*2*3*5*7*9*10*13*16

[分類]    1)全身麻酔

        (1)吸入麻酔*2*7:吸入麻酔薬と酸素*3の混合気体を気道から吸入させる

        (2)静脈麻酔*3*7:静脈麻酔薬を静脈投与する

        (3)バランス麻酔:吸入麻酔に、筋弛緩薬と鎮痛薬などを併用する

        (4)直腸麻酔*7:直腸から麻酔薬を投与する

    2)局所麻酔

        (1)表面麻酔*2:皮膚や粘膜に局所麻酔薬を塗布する

        (2)浸潤麻酔:皮下、皮下組織に局所麻酔薬を注入

        (3)伝達麻酔(神経ブロック):特定の神経に局所麻酔薬を注射

         1.星状神経節ブロック→帯状疱疹*1、レイノー病*5血行障害*16に用いるが、顔面痙攣には不適応*13

         2.肩甲上神経ブロック→五十肩*4に用いる

         3.腹腔神経叢ブロツク→膵臓癌性の疼痛*10に用いる

         4.肋間神経ブロック→気胸に注意*15

    (4)脊髄クモ膜下麻酔(脊椎麻酔*2):クモ膜下腔へ局所麻酔薬を注入する

        下腹部(虫垂*13)、会陰、下肢大腿骨*9の手術に適応*3

    (5)硬膜外麻酔*2*7:硬膜外腔へ局所麻酔薬を注入する。

        気管内挿管は行わない*3

 

D.婦人科疾患

*.子宮筋腫*1*6*8*11

[概要]    子宮平滑筋組織から発生する良性腫瘍*6で、閉経後は退縮する

[疫学]    1)好発年齢:40歳代*1130歳代*1150歳代*620歳代ではまれ*8

       2)好発部位:主に子宮体部*6*8*11に生じるが、子宮頚部に発生することもある

[症状]    1)過多月経*8*11による貧血*1

       2)子宮腫大による圧迫症状(下腹部膨満感、頻尿、排尿困難*1、便秘)

       3)不妊*1*8や妊娠中の流早産の原因となる

       4)粘膜下筋腫*6では、症症が激しい傾向がある

 

a.子宮頚癌*9*14

[概要]    子宮に発生する癌のうち、子宮頚部に初発するものを子宮頚癌という

[疫学]    1)全子宮癌のうちの90〜95%で、女性の性器腫瘍のうちでもっとも多い*9

        2)肩平上皮癌、腺癌、混合型があるが、肩平上皮癌がもっとも多い

        3)好発年齢は40〜60歳代で、50歳代がもっとも多い

        4)初交年齢の早い者、複数の性的パートナーがいる者、配偶者が包茎である婦人などで発症頻度が高い

[病因]    子宮頚癌の発病には、ヒト乳頭腫ウイルス*14(humanpapillomavirus;HPV)との関連が示唆され、とくにHPV16や18型感染が関連している可能性が高い

[症状]    1)初期には自覚症状はない

        2)進行すると、不正性器出血、接触出血、帯下がみられる

        3)末期では疼痛が出現する

[診断]    組織診断が重要

[予後]    1)腫瘍が局所に限局したI期では5年生存率が80%をこえるが、全身に進行したⅣ期では20%を切る

        2)腺癌、混合型の予後は悪い

b.子宮体癌

[概要]    子宮体(子宮内膜)から発生する癌である

[疫学]    1)子宮癌全体の5%程度とされてきたが、平均寿命の延長や食生活の欧米化に伴い、最近では子宮癌全体の30%をこえてきている

        2)患者の平均年齢は58歳で、患者の約75%は閉経後婦人である

        3)未婚、不妊、閉経後、初婚・初妊年齢が高い、妊娠回数・出生児が少ない、30歳以上の月経不規則、卵胞ホルモン服用者、などの婦人に発病率が高い

[分類]    子宮体癌には、腺癌、肩平上皮癌、混合型、未分化癌がある

[症状]    不正性器出血(必発)、過多月経、異常帯下、疼痛などが現れる.

[診断]    組織診断が重要

[予後]    癌が局所にとどまり、かつ組織型が腺癌の場合には5年生存率が90%をこえるが、進行するにつれ予後が悪くなる

 

c.乳癌

[概要]    乳腺に発生する癌である

[疫学]    1)減少している子宮頚癌と異なり、食生活の欧米化、ことに脂肪摂取量の増加により乳癌は増加している

        2)家系内に乳癌患者がいる、未婚・未産婦、初産が30歳以上、閉経年齢が55歳以上、肥満女性などに多い

        3)好発年齢は45〜50歳であるが高齢化傾向にある

        4)組織型では、乳頭腺管癌、充実腺管癌、硬癌の3型が90%ほどを占める

[症状]    1)腫瘍の触知

        2)乳頭分泌や湿疹様びらん

[予後]    癌が局所に限局したI期では90%の5年生存率であるが、遠隔転移したⅣ期では15%と悪くなる

 

d.更年期障害

[概要]    更年期に現れる不定愁訴症候群をいう

[病因]    1)自律神経異常あるいは心因性によって発症する

        2)性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性代謝性のさまざまな生体変化を起こすことによると考えられている

[症状]    様々な不定愁訴(咳嗽はみられない*10)がみられるが、いずれも自覚所見で、他覚所見はみられない

 

e.月経異常

[概要]    月経異常には、以下のものがある

        1)初経や閉経の時期の異常:思春期早発症、早発閉経

        2)月経周期の異常:頻発月経、稀発月経、無月経

        3)月経量の異常:過多月経、過少月経、

        4)月経に随伴する症状の強い月経困難症などがある

[疫学]    1)思春期早発症、原発性無月経、早発閉経は、続発性無月経に比較すると頻度的には少ない

        2)頻発月経、稀発月経、無月経は、卵巣機能が不安定な思春期や更年期に多い

        3)子宮筋腫に伴う過多月経は40歳代に多い

[病因]    1)卵巣機能の不安定

        2)子宮筋腫や子宮内膜症に続発する

        3)機能性月経困難症など

[症状]    1)月経の周期、頻度、量などに異常がある

        2)月経困難症では下腹部痛や腰痛を伴うことがある

 

E.皮膚科疾患

a.接触性皮膚炎

[概要]    1)外来性の物質*1との接触によって生じる皮膚炎をいう

        2)金属、植物、果物、日用品、化粧品、医薬品など日常の生活で接触しうるほとんどすべての物質が接触原となりうる

[病因]    1)接触原そのものが皮膚障害性をもっていて発症する

        2)免疫学的に感作されて発症する

[症状]    1)急性期:接触部位にかゆみ、紅斑、浮腫を生じ、紅色丘疹、壊液性丘疹

        2)慢性期:それぞれの湿疹が癒合して浸潤病変、苔癖化病変に移行する

 

b.ア卜ピー性皮膚炎

[概要]    多くは乳幼児期に乳児湿疹として発症し、年齢が進むとともに異なった皮膚症状を呈する広範囲の湿疹性皮膚疾患である.

[疫学]    罹患率は、学童で6〜8%、一般人口で1〜3%である.

[病因]    1)原因は不明である

        2)アレルギー性鼻炎や気管支瑞息との合併が多いこと、血清IgE値が高いこと、特異的IgE抗体が存在することなどから、1型アレルギー機序の関与が考えられている

        3)季節変動があり、冬から春にかけて悪化することが多い

[症状]    1)乳幼児期(3歳頃まで):顔面、頭部に紅斑、丘疹が出現し、頚部や体幹、四肢へと拡大する。湿潤傾向が強く、痂皮を伴う

        2)幼少児期(4〜lO歳頃):湿潤傾向は減弱し、乾燥傾向を示す.頭部や関節嵩などに苔癖化局面ができる.

        3)思春期、成人期:思春期頃までに軽快する症例が多い。皮疹は乾燥傾向が強く、関節窩に苔癖化局面が限局していることが多い.

 

F.眼科疾患

a.結膜炎*11*15

[疫学]    1)アレルギー性結膜炎:春から夏にかけて多い

        2)感染性結膜炎:感染性結膜炎のうち、アデノウイルス8型*11*15による流行性角結膜炎は院内感染が起こりやすい

[病因]    1)アレルギー性結膜炎は花粉などに対するアレルギー性炎症が結膜に及ぶもので、アレルギー性鼻炎に合併しやすい

        2)感染性結膜炎は、などのウイルス、クラミジア、グラム陽性球菌など細菌によって発病する

[症状]    結膜充血、眼脂、流涙がみられる

[診断]    1)アレルギー性結膜炎はかゆみが強く、季節性のあること、アレルギー性鼻炎の併発がみられる

        2)アデノウイルスによる結膜炎は検出キットで診断できる

        3)クラミジア性結膜炎は大型櫨胞が特徴である

        4)細菌性結膜炎では膿性の眼脂があり、培養して細菌を同定する

[予後]    1)アレルギー性結膜炎は季節とともに軽快するが反復しやすい

        2)アデノウイルス性結膜炎は3週間で自然治癒する。最初の1週間は伝染力が強い

        3)クラミジア性結膜炎は難治性で2カ月程度の治療が必要である

        4)細菌性結膜炎は適切な抗菌薬が使用されれば1週間以内で軽快する

d.白内障*6*8

[概要]    さまざまな原因で水晶体が混濁*6*8し、視力が低下する疾患である

[病因]    1)加齢によるものが多い

        2)糖尿病やアトピーなどの全身性疾患や、虹彩炎、網膜色素変性症などの眼内疾患に併発

        3)外傷や先天性に発病することもある

[症状]    1)視力障害が徐々に起きる。

        2)まぶしく感じることもある

 

e.緑内障*6*8

[概要]    眼圧が亢進*8上昇*6)して視神経が障害され、視野障害がさらに進行すると失明に至る一連の疾患群である.ただし、最近では眼圧が高くない緑内障のあることもわかっている

[疫学]    罹患率は40歳以上で3.6%と推計され、失明原因の第2位(第1位は糖尿病網膜症)である

[分類]    1)原発性        

            (1)開放隅角

            (2)閉塞隅角(最も多い)

        2)続発性        

             (1)開放隅角

             (2)閉塞隅角

        3)先天性

[症状]    1)視野障害

        2)視力障害

        3)緑内障急性発作の場合には、眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、霧視、充血など

 

G.耳鼻科疾患

a.メニエール病*5*11*14

[概要]    耳鳴、難聴を伴う回転性の眩暈(めまい)発作が反復する病態

[病因]    1)内耳の内リンパ水腫*5が原因とされる

        2)内リンパ腫は、内耳の循環障害によるとの説が有力で、感染後、外傷後、自己免疫疾患などでもみられる

        3)種々の外因、内因によっても発症し、ストレス病の一種とも考えられている

[症状]    1)一側性の難聴*5*11耳鳴*5*11めまい発作*5*11*14←主症状

        2)これらが関連して反復消長*14して現れる.吐き気直吐、冷や汗を伴うこともある.

[検査]    1)聴力検査:中・低音域で感音難聴を示す*14

        2)眼振検査:発作時に水平回旋混合性自発眼振*14があり、温度眼振検査では患側耳の刺激で軽度ないし中等度の反応低下がある

[予後]    メニエール病の1回の発作は比較的短く1週間以内である。発作は反復し、次第に難聴が進行する

 

c.突発性難聴*6*9

[概要]    1)原因不明に突然発症する感音難聴を総称して突発性難聴という

        2)流行性耳下腺炎(ムンプス)で急性の高度感音難聴が起こることがある

[病因]    1)頭部外傷、気圧外傷、ウイルス・細菌感染、内耳血流障害、聴神経腫瘍などがある

        2)また、スキューバダイビングによる内耳気圧外傷による急性感音難聴が増加している

[症状]    1)突然に発症*9し、高度の感音難聴*6が生じる

        2)耳の閉塞感*6耳鳴*6、めまい*6を伴うこともある

 

d.アレルギー性鼻炎*13*17

[概要]    鼻粘膜の即時型アレルギー性疾患*13で、慢性化することが多く*13、副鼻腔炎を合併もみられる

[疫学]    30年前と比較し約2倍に増加している

[原因]    鼻粘膜肥満細胞上で、吸入性抗原(花粉、ダニなど)がIgE抗体*17と反応を起こすことによる

[症状]    1)発作性のくしゃみ*17水溶性鼻汁*17、鼻閉が反復性に生じる

        2)眼の異物感、眼瞼腫脹、流涙

[検査]    鼻汁好酸球検査が重要*13

[治療]    手術療法*17:電気凝固法、下鼻甲介粘膜切除術などが行われる

 

H.精神科疾患

c.うつ病*9*11*14*15*16

[概要]    1)うつ病は、統合失調症と対置される2大精神疾患の一つ

        2)気分、思考、意欲における変調を主徴とするものである

[疫学]    平均発症年齢は20歳代後半〜30歳代で、中高年での初発も珍しくない

[病因]    セロトニン*15やノルアドレナリンなどによる神経機能の低下が関連している可能性が高い

[症状]    1) 2)の9つのうち5つ以上の症状が2週間以上、同時に存在する病態をいう

        2)抑うつ気分、興味や喜びの喪失*14焦燥*14または制止、易疲労性や意欲低下*9、無価値観や罪責感、思考力制止*11*16や集中力の減退、自殺念慮*9や企図、食欲や体重の異常、睡眠障害*9

        3)病相期間以外には、正常で、残遺状態を呈することはない

        4)意識障害、著明な記憶障害や知能障害を呈することがない

[予後]    うつ病エピソードは通常3カ月から6カ月持続し、予後は良いが、再発することが多い

 

I.心療内科

b.神経性食欲不振症

[概要]    食行動の異常を中心に、著しいやせや無月経をはじめとする身体的異常や、抑うつ状態など精神症状を伴う疾患である

[疫学]    好発年齢は12〜25歳で、99%が女性である

[病因]    1)摂食障害は心理社会的要因や摂食調節機構の障害で生じる

        2)若年女性に多く発病し、やせ願望、自分の身体に歪んだイメージをもつことや体重増加への病的な恐怖の存在がある

[症状]    1)食行動異常として、拒食、過食、嘔吐、低カロリー食品の選択などがある

        2)摂食障害の結果として、やせ、肥満、易疲労感、低体温、低血圧、徐脈、脱毛、皮膚乾燥、味覚障害、骨粗霜症、無月経、便秘、浮腫、脱水、貧血、低血糖などが現れる

        3)精神症状として、活動性の克進、不安、抑うつ、不登校などがある

[予後]    長期予後は、改善50%.不変25%.悪化25%程度で、飢餓や自殺で死亡する患者が5〜8%ある

 

c.神経性過食症

[概要]    繰り返してむちゃ食いする状態で、神経性食欲不振症と神経性過食症は互いに移行する

[疫学]    神経性食欲不振症に比べ、思春期後期以降では発症率がむしろ高くなる

[病因]    精神心理的問題が発病の原因になる

[症状]    むちゃ食いを繰り返すが、その後に体重を増加させないために、飢餓、運動、自己嘔吐、下剤などの薬物濫用などの行動をとる

 

 

 

 

 

注釈

[←1]

:誤刺による感染率は、B型22~80%、C型1%程度、エイズ約1%といわれている

[←2]

:側副血行路は門脈圧の亢進が原因となって生じ、1)臍周辺の腹壁静脈の怒張*5メズサの頭*10)、2)食道静脈瘤*1、3)痔静脈瘤が代表的である

[←3]

:胆石が胆道系に詰まることで生じる。高脂肪食、暴飲暴食、過労が誘因となり、夜間就寝中まもなく突然激しい痛みが心窩部・右季肋部に生じ、右肩に放散する

[←4]

膵腋によって組織が溶解され、その血性滲出液が臍周辺や側腹部の皮下に沈着するため生じる

[←5]

肺の炎症時に蛋白分解酵素から肺を守る作用がある

[←6]

:[小気胞]臓側胸膜内に発生した直径1㎝以下の異常気腔

[←7]

:[気腫性のう胞]直径1〜10㎝で肺胞壁の破壊により生じる

[←8]

:上大静脈から心臓への還流がせき止められ頸部静脈怒張*10が生じ、顔面浮腫などが生じる

[←9]

:上腕神経叢、交感神経(星状神経節)に浸潤すると生じる。1)肩から尺側への疼痛、2)上肢筋萎縮、3)ホルネル症候群*5の3主徴(縮瞳*10、上眼瞼下垂、眼裂狭小*16

[←10]

:反回神経に浸潤すると生じる

[←11]

:尿中への喪失などによる

[←12]

:合成亢進、胆汁酸への転化障害などによる

[←13]

:海綿腎、嚢胞腎、水腎症,馬蹄腎*8など

[←14]

:糖代謝、たんぱく質代謝、脂質代謝、水・電解質代謝、消炎、免疫抑制など生命維持に不可欠な重要な作用を発揮するホルモン

[←15]

:粘液水腫と同様に、嗄声*14、精神不安定、意欲の低下がみられ、非圧痕性浮腫*14により体重が増加*14する

[←16]

:慢性の経過中に、甲状腺に蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出ることによる

[←17]

:日本における透析導入原疾患の第1位となっていることから、アルブミン尿*17を測定し腎症の早期からの診断・治療が重要

[←18]

膝蓋腱反射が消失・減弱する*12

[←19]

:眼筋麻痺、失調に加えて特有な精神症状つまり記銘障害、作話、空間と時間に対する失見当を特徴とする健忘症候群

[←20]

:母指を他の4本の指で手掌中に覆うように握らせた状態で手関節を尺屈すると激しい疼痛が誘発される

[←21]

:おむつ(昆布巻のように下肢伸展位でくるむやり方)や抱き方といった文化的な差異のためといわれている

[←22]

:膀胱排尿筋の緊張が強くなり、無意識に膀胱が収縮して尿が出る

[←23]

:膀胱排尿筋の緊張が低下し、尿を押し出すのに十分な力がない。膀胱は大きくなり、括約筋はゆるむ。腹部に圧力がかかると尿がもれやすい

[←24]

:手関節を掌屈させ両手を強く合わせて押すと、しびれ、痛みが増強する

[←25]

:手根管の上をハンマーで叩打すると、末梢にしびれ、痛みが放散する

[←26]

:心膜液の貯留により心臓が圧迫され、拡張期充満が障害され心拍出量が低下した状態

[←27]

:心筋酸素需要の増加が生じるのに大動脈圧低下によって冠血流量低下が生じるため

[←28]

:副腎皮質機能亢進により糖質コルチコイドの分泌が過剰となる疾患

[←29]

:副腎髄質などに発生したクロム親和性細胞腫瘍がカテコラミンを分泌して高血圧などを引き起こす

[←30]

:副腎の原発性病変(腺腫・癌)によってアルドステロン分泌増加をきたす状態

[←31]

:腎性高血圧で、蛋白尿や血中ナトリウム低下がみられる

[←32]

:高血圧で心臓に負担がかかることによる

[←33]

:高血圧性網膜症による

[←34]

:起立性低血圧*7、陰萎、尿閉・尿失禁)、2)運動障害(パーキンソニズム、小脳症候、錐体路徴候)などがみられる

[←35]

:胃壁細胞から分泌されB12と結合し複合体を形成し、回腸で吸収される。胃切除後3〜4年以降に悪性貧血が発症する

[←36]

:骨髄や末梢血で幼弱な芽球成分が増加し、中間段階の細胞が消失し、成熟顆粒球が減少しているが認められる。この中間段階の細胞が抜けているために裂孔と称する。急性白血病でみられる

[←37]

:上腕にマンシェットを巻いて圧迫し、皮下出血点の数を調べるもので、毛細血管の脆弱性による透過性亢進の有無を調べる

[←38]

:脳血管障害により急激に意識障害、神経障害が出現する状態

[←39]

:微小塞栓、血管攣縮などで脳の循環障害が生じ一過性に神経症状を生じる発作のことをいう

 症状→1)突発する、2)神経症状(運動・感覚障害、失語など)、3)24時間以内に症状は消失*3

[←40]

:リウマチ性弁膜症(僧帽弁口狭窄)、心房細動*4*9*16、心筋梗塞、心内膜炎などの心疾患が原因*1となり血栓が生じる

[←41]

:ウイリス動脈輪の閉塞により側副血行路が形成され、血管影像がタバコの煙のようにみえるため名付けられた

[←42]

:仰臥位で他動的に頭部を前屈させると、筋の抵抗が強く痛む

[←43]

:仰臥位で股関節を90度屈曲した状態から膝を押さえながら下腿を持ち上げる(膝関節伸展)屈筋の抵抗が生じ伸展できない

[←44]

:仰臥位で膝関節を伸展したまま、他動的に下肢を挙上し股関節を屈曲させると、70度以下で下肢後側に疼痛が生じ挙上できない

[←45]

:仰臥位で頭部を他動的に前屈させると、股関節と膝関節に自動的な屈曲が生じる

[←46]

:角膜縁に銅が沈着するため緑色の輪ができる

[←47]

:原因不明。大脳の限局性萎縮がみられ、特有な人格変化や特有な態度、滞続言語などが生じる

[←48]

:原因不明。大脳深部白質のびまん性脱髄・萎縮および側脳室の拡大がみられ、主症状として緩徐進行性の痴呆が生じる

[←49]

:痴呆、歩行障害、尿失禁と精神症状を伴い、腰椎穿刺での髄液圧は正常範囲にあり、脳室拡大を認め、髄液短絡術で著明な神経症状の改善を認める水頭症群

[←50]

:常染色体優性遺伝を呈し、進行性の舞踏病様運動、精神症状、痴呆を生じる変性疾患

[←51]

:プリオン蛋白の異常により生じる中枢神経疾患で、60歳代前後に発症し、亜急性進行性痴呆、ミオクローヌス、小脳失調などがみられる病態で、新亜型は海綿状脳症を呈した牛からの感染により発生したと考えられている

[←52]

:免疫抗体を他の個体に投与し、免疫能を転嫁する方法

[←53]

:視野の一部でチカチカ火花が出てその部分が見えなくなる

[←54]

四肢末梢、顔面の浮腫で始まり体幹に広がる。皮膚は硬化してつまみにくくなり、手指はソーセージ様となり、顔は仮面様で口周囲に放射状のシワが生じる

[←55]

注射針刺入後24〜48時間に、刺入部に発赤とともに無菌性小膿疱がみられる

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